(※写真はイメージです/PIXTA)

「最近、生活保護をもらっていたのだけれど、働かせてもらえないかとか、長年引きこもりだったのだが、雇ってもらえないかという話が増えてきています。父兄とか、周囲の人とか。本人からの場合もないではない。正直言って、生活保護をもらっていたと聞いて、働けるのかなと不安があったのは事実です。しかしそうした状態から何とか抜け出させてあげたいという気持ちもあり、引き受けてみたんです……」中小企業家同友会の取り組みをレポートします。

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中小企業の人手不足とダイバーシティ

「率直に言って、行動を起こさない経営者も多いですよ」

 

山形県中小企業家同友会の社員共育委員長で、田宮印刷常務の阿部和人氏は歯に衣きせず、一部会員経営者を批判する。いい会社にしたいと言いながら経営指針づくりに二の足を踏み、人が欲しいと言いつつ共同求人活動、継続的な新卒採用に躊躇している経営者も多いと言うのだ。

 

「ましてや人材教育となると、時間がない、やり方がわからないと言って、さらに消極的です」

 

阿部氏ならずとも、仲間のこうした姿を見て切歯扼腕している同友会会員は少なくない。

 

対して、そうした足踏みを続ける会員経営者を横目に、新卒の社員採用、教育からさらに一歩進んで、多様な人材、例えば、身心に障害のある人、外国人、女性、高齢者などを雇用、育成教育して、積極的に自社の戦力として業績アップにつなげている、いわゆるダイバーシティ経営に踏み込んでいる会員経営者も少なくない。

 

大きな課題も抱えてはいるが、近年増加している外国人の技能実修生受け入れの先進的事例を、まず見てみよう。宮城県中小企業家同友会の副代表理事の佐藤全氏が社長を務めるヴィ・クルーのケースである。佐藤氏は熱く語る。

 

「宮城県内の新卒採用の充足率が50%を切るような状況で、人手が足りないから外国人実習生でも採ろうかという経営者がいると聞きます。しかし、うちは考えが全く違います。外国人、うちの場合はインドネシア人ですが、研修生だからといって期間中、ただ仕事だけさせておけばいいなどとは考えていません。

 

処遇等は社内規定通りで、在留資格を取得すれば基本的には日本人と同じ。だから2年前に来た彼は日本人の後輩が入ってくれば、うまくはないが日本語で仕事を教えようとする。そうすることで、彼自身の技能も向上し、日本語もうまくなって社内に溶け込んでいけます」

 

佐藤氏はなぜ外国人を雇用しているのかについて、「私は単に人手を充足するためではなく、次の事業上の展望があって、彼らを受け入れているんです」と説明する。あくまでも合理的な経営判断に基づいて、インドネシア人実修生を受け入れているのだ。2018年で6人にもなるという。

 

ヴィ・クルーは、バスの車体の修理・塗装から、部品製造、さらにはバスそのものの製造へと業務を広げてきている。その延長線上には、次のような事業計画がある。

 

「私はEV(電気)バスを製造し、輸出したいと考えている。というのはインドネシアのようなインフラが未整備で交通難民の多い国では、EVバスに需要があると考えているからです。その場合、バスを売るだけでなくメンテナンスする会社やエンジニアが必要。そこで私はインドネシアにメンテナンス会社を設立し、うちで実修を終えた若者たちが帰国した後、その技能を生かし、エンジニアとして働いてもらおうと考えているのです」

 

実現すれば、安い人件費と単なる人手不足対策にとどまらない、派遣する側の国にもメリットをもたらす、外国人実修生制度を組み込んだ優れた外国人技能労働者の能力活用、つまりダイバーシティ経営のモデルとなるに違いない。佐藤氏のような、グローバルな視点と長期的な経営戦略にのっとった技能実習生の受け入れ事例はもっとあっていい。

 

次ページ生活保護受給者や“引きこもり”も戦力

※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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