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岡山同友会、社員教育3本柱のこだわり
岡山県中小企業家同友会事務局長の安本直一氏によると、岡山同友会の「社員共育大学」の目的は全8回にわたる講座を通じて、仕事とよりよく生きることの関係を共に考えること、自社の持ち味を再認識し自分の役割や責任を考えること、人の話を聴く力や自分の意見をまとめて表現する力や討論の力を養うこと、そして多くの他社の社員との交流により新しい仲間づくりをすることなどだという。
つまりこの社員共育大学の主たる目的は外部のセミナーなどで得られる一般的知識やテクニカルな知識の向上ではなく、人間力の向上にあると言っていいだろう。
こうした目標に重ねて、次のようなことも加わる。岡山同友会常任相談役で、中小企業家同友会全国協議会(中同協)社員教育委員長を務める岡山トヨタ自動車社長の梶谷俊介氏は「私も参加して初めて気づいたのですが、ここは社員を教育するだけでなく経営者の学びの場でもあります。つまり経営者が社員と一緒に参加、共に学び共に育つ、共育の場なのだとわかったのです。それでこの大学の目的に、経営者の学びの場でもあると明記することにしたのです」と語る。
岡山トヨタは県内有数の自動車ディーラーで、2017年3月期の売上高は180億円を超える。トヨタレンタリース岡山などグループ会社も5社あり、同友会会員企業としてはかなり規模が大きい。梶谷氏は父祖の後を継いだ三代目で、01年に社長に就任している。同友会入会はその3年前になる。
その梶谷氏が同友会の「社員教育」に関わるようになったのは、現在の社員共育大学の前身である「幹部社員大学」とでもいったものが開かれており、それに参加している岡山トヨタの幹部から「連れていかれる形で参加した」のがきっかけだという。
1996年のことである。その後、現在の社員共育大学に体制が切り替わると、前述のように「経営者が社員と一緒に参加、共に学び共に育つ、共育の場なのだとわかった」ことから、積極的に関わることになったのだという。もっとも企業ベースで言えば、岡山トヨタよりトヨタレンタリース岡山のほうが規模の関係もあり、より組織全体としての取り組みになっているそうである。
社員共育大学は8回にわたる講座終了後、日を改めて修了式が行われ、受講者には修了証書(あるいは受講証書)が授与されることになっている。ただしその前提として受講社員本人が全講義のレポートを提出したうえで、経営者がそれを読了し、経営者も総括レポートを提出しなければ修了と認められない。
しかも社員を送り出している企業経営者は、毎月1回打ち合わせを行い、前回の反省を踏まえつつ次回の報告内容や討議の柱を検討するのだという。経営者は多忙な中で時間を割き、社員共育大学に真剣に向き合っているのだ。これだけやって受講者が成長しないような事態は、おおよそ想像しにくい。
実は岡山同友会の「社員共育大学」には前史がある。1994年に組織内で社員教育システムを何らかの形で立ち上げようとの話が持ち上がったのだが、当初は外部講師によるセミナー方式を望む意見が会員の間では強かった。
しかし事務局の一部から、同友会理念の「三つの目的」に「ひろく会員の経験と知識を交流して企業の自主的近代化と強靱な経営体質をつくる」とあるのに、外部に依存するのはおかしいのではないかとの原則論が出て、「外の講師は呼ばない。社員だけでなく社長も出席する。グループ討論を入れる」の3つの原則が打ち立てられ、今日ある方向に進んだのだという。当時の社員教育委員長、額田信一氏の回顧である。
しかも当初は社員とはいいながら「経営者の右腕」とでも呼ぶべき幹部社員が参加対象で、名称も「幹部社員大学」というものだったが、より幅広い社員を対象にしようとの考えが強まり、99年に内容もシステムも現在のように改められ、「社員共育大学」として再スタートを切ることになった。
というのも、岡山同友会では92年からすでに、会社経営者、幹部社員(のちには「社員共育大学」修了の一般社員も含む)を対象とした、大学教授など学識経験者を招いての講義とグループディスカッションを柱とした「同友会大学」を開いており、前述のやり方では屋上屋を重ねることになりかねないからだ。
「同友会大学」はその目的を「経営者・幹部社員として、経済の動向を読み取る科学的洞察力を養う」「中小企業が地域で果たす役割と中小企業の独自性を正しく認識できる力を養う」「経営者と社員が共に学び、自立型企業づくりを推進する」こととしており、講義内容は現在もそうだが、日本経済、中小企業経営など「科学的」で専門的な色合いの濃いものになっている。特に2013年から、経営に直結する経営戦略論、地域経済論などが強化されているという。