生活保護受給者や“引きこもり”も戦力
千葉同友会の代表理事を務めたこともある笹原繁司氏は、建築や道路工事現場、スーパー、百貨店の駐車場での交通整理や警備のためにガードマンを派遣する総合パトロールを経営している。会社設立当初は無断欠勤や遅刻常習者に手こずりながら、経営指針作成を軸に社内風土を徐々に改善し、自らも社員を信頼する経営者に変身することで、社員の信頼を勝ち得、社業も次第に上向き、現在に至っている。
その笹原氏が語る。
「最近、生活保護をもらっていたのだけれど、働かせてもらえないかとか、長年引きこもりだったのだが、雇ってもらえないかという話が増えてきています。父兄とか、周囲の人とか。本人からの場合もないではない。正直言って、生活保護をもらっていたと聞いて、働けるのかなと不安があったのは事実です。しかしそうした状態から何とか抜け出させてあげたいという気持ちもあり、引き受けてみたんです。
もちろん何も問題がなかったということはないですよ。しかし問題が起きると時間をかけて話し合うことを続けていくうちに、彼らも徐々に打ち解けてくるとともに仕事にも慣れてきて、十分戦力になることがわかってきました。今では当社の警備員の10%余りがそうした人になってきています」
生活保護を受けている人も様々だし、働きたくても機会を得られない人も多いという。心を開いてそうした人たちを迎え入れ、戦力としていくことの大切さを、笹原氏の事例は教えている。人手不足の時代に有効な施策であるとともに、社会的にも意義がある。これもまた、優れたダイバーシティ経営の一例である。
ヴィ・クルーや総合パトロールのケースが個社ベースでのダイバーシティ経営への取り組みだとすると、同友会の支部を挙げてこれに取り組んでいるのが、広島県中小企業家同友会福山支部だ。
すでに真夏の日が頭上を照りつけていた2018年8月6日午前9時、福山駅北口広場に駐車していたバスに、観光客とは雰囲気の異なる40人近い20~50代の男女が次々と乗り込んだ。市内に設けられている3つの特別支援学校のうちの一つ、広島県立福山北特別支援学校の先生たちである。特別支援学校とは、身心にハンディのある小学生から高校生まで(幼稚園児レベルまで含むところもある)を教育する学校で、福山北特別支援学校は主として知的障害のある子供たちを対象とした教育施設である。
広島同友会福山支部では、08年に障害者問題の準備委員会を立ち上げ、10年から福山北特別支援学校との連携を始めている。障害児に対する理解を深める一方、彼らの就業支援を行おうという考えからである。
同友会内での障害者問題への取り組みは、愛知県中小企業家同友会が1964年に福祉担当理事を置いたのを皮切りに、少なくない同友会で活動が先行している。82年には中同協も障害者問題委員会を発足させ、全国レベルでの障害者問題全国交流会(隔年開催)も2019年で20回に達する。「人間尊重の経営」を掲げる同友会らしい取り組みだと言っていい。
そうした中で、福山支部の障害者問題への取り組みは必ずしも早くはない。ただ大きな特徴がある。同支部では支部予算でバスを仕立てて、特別支援学校の先生たちに会員企業を回ってもらい、中小企業の実態を理解し、その目で仕事の現場を観察、生徒の特性に合った職場を見つけ出してもらうという点だ。
準備委員会の立ち上げ時からこの取り組みに関わってきた伝票製造業ワンライト社長の高橋宏之氏は、「先生方が様々な会社を見学し、この仕事ならうちの生徒にもできると企業側と話し合う。そのことが生徒の実習につながり、さらに実際に働くことで雇用につながる。つまりバスツアーは障害のある子たちと企業との縁をつくっていくきっかけになるのです」と、その意義を記している。
障害のある子供たちの仕事探しは難しい。重度の知的障害や精神障害、あるいはその複合障害がある子供の場合などは、ことにそうだ。しかも仮に仕事が見つかっても、相互理解が欠けていると短期での退社などにつながる。
社内の雰囲気がやさしくなり、職場環境の改善にもつながるなどメリットも少なくないが、現実はなかなか難しい。そうした中での福山支部の取り組みは、障害のある生徒の就職活動にある種の風穴を開ける試みだと言っていいだろう。