(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業には大卒はなかなか入社してくれないと経営者は嘆きます。地域が疲弊すると、そこに足場を置く企業も疲弊します。そうならないように地元の子供を採用し、地域が元気になるように努力する責任が中小企業経営者にはあるという。中小企業はどんな取り組みをしているのでしょうか。

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「しんどい学校」の生徒を採用する理由とは?

中小企業家同友会流の採用から一貫した社員教育が、いかに企業を活性化するかを見ていく。

 

まず、いわゆる「しんどい高校」から「しんどい生徒」を採用し、教育を続けながら、成長を続けている大阪府中小企業家同友会(大阪同友会)の会員企業から紹介したい。ドヤ街“釜ヶ崎”のある大阪市西成区内に本社・工場を置き、鋼材加工・販売を主業とする梅南鋼材がその会社である。

 

社長の堂上勝己氏は三代目だが、苦労知らずの並の三代目とは違う。父親の後を継いだ実兄が事故で急死、工業系短大を卒業し建築設計会社のサラリーマンをしていた堂上氏が、会社のことも、経営のことも全く知識がないままに、28歳で後継社長の座に就かざるをえなくなったのである。

 

就任後、バブルがあり、その崩壊があり、景気が回復したかと思うとリーマンショックが襲いかかるという具合で、梅南鋼材の売上高はジェットコースターのように上下した。「バブル期には銀行からマンション一棟買いの話が来たりしたが、セミナーで耳にした浮利を追わずという言葉が頭の隅に残っていたのと、よくも悪くも度胸もなかったので、話に乗らなかった」と振り返る。

 

2000年代に入ると、単なる鋼材の販売会社では生き残れないと考え、前加工をして売るメーカーへと脱皮することで、質の高い自立的企業への道を歩み始める。直近では粗利益率50%台を維持しつつ、19年の売上高予想8億円、従業員46人を、29年には売上高25億円、従業員120人にしたいと意欲的な計画を堂上氏は立てている。「プラモデル納品」といって、プラモデルの部品のようにほかの部品とぴったり合う部品を、1品の注文でも72時間で納品するという凄技が可能な会社だけのことはある。

 

同社が高校新卒定期採用をスタートさせたのは04年で、世の中は就職氷河期と呼ばれ、「内定取り消し」が話題の時代だった。同社も不良債権を抱え経営的にはとても採用できる状況ではなかったが、交流を深めていた地元の府立普通科高校の校長に熱心に頼まれ、女生徒2人の採用を決めた。

 

「だが、採用はしたものの一人の子の仕事がない。聞くとレーザー加工機のCADオペレーターなら女性でもできるという。急遽レーザー加工機導入を決め、4500万円の投資をした。結局、その投資が(精密加工を可能にし)今の当社の収益力につながっています」

 

堂上氏によれば、毎年入ってくる新人には同友会の研修と自社での研修、合わせて500時間の研修を行うという。採用数は最初2人だったが、このところ4~5人にまで増やしている。会社としては相当な負担だ。しかし、堂上氏はこう笑顔で語る。

 

「彼らは、研修後もしばらくは社員の足を引っ張りまわしますが、1~2年でしっかり仕事ができるようになります。スタートの遅い子もいますが、長い目で見るとそう違いませんよ。社内では、同期だからといって比べるのはやめよう。本人がどれだけ伸びたか、絶対評価でいこうと言っています」

 

昨年入社した高卒の女子社員2人は新卒社員の採用のためのガイダンス用パーワーポイントを作らせたところ、「驚くほどの出来栄え」で堂上氏を驚かせた。

 

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※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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