「モノ、カネ、情報」を活用するのはヒト
こうした経過を経て、社内には人を育てようという風土が醸成されていった。中小企業で長く働く人は新たなことにチャレンジすることを嫌うし、職人気質で自らの仕事を後輩に教えることを好まないとよく言われる。梅南鋼材では人材育成の風土が根づいていく中で、そうした古い体質のベテランたちが自らドロップアウトしていったという。
逆に堂上氏は、「一般社員については仕事ができるか、組織になじんでいるかを人事評価の2つの柱に据えるとともに、管理職については、いかに人を育てられるか、育てているかで評価するようにした」と語る。両々相まって、人材育成の風土がより培われていったということだろう。
「中小企業には、大卒はなかなか来てくれません。しかし地域が疲弊すると、そこに足場を置く企業も疲弊します。そうならないよう地元の子供を採用し、若者がいなくなって地域が疲弊しないように努力する責任が、私たち中小企業経営者にはあるんです」
堂上氏は決然とそう語った。人手不足、採用難時代に入っているが、梅南鋼材は地元高校との長く深い関わり、採用実績がものをいい、その苦労はない。
■人こそ最も重要な経営資源
2018年6月下旬から7月初旬にかけて、岡山、広島両県など西日本各地を襲った大豪雨の惨禍の傷もまだ癒えない8月2日夕刻、倉敷市の中心部から東北に4キロほどの日帰り温泉施設内のホールで、岡山県中小企業家同友会(岡山同友会)が6月に開講した「第20期社員共育大学倉敷校」の第3講が開かれていた。
参加者は経営者および経営者代理が17人、入社2~5年の若手社員が35人の計52人。大豪雨の惨状を考えると、これだけの参加者が集まったことに、岡山同友会会員企業の社員共育大学にかける熱意の程がわかる。前日に岡山市内で開かれた岡山校の講座にも倉敷校を超える数の経営者、社員が集まったと聞くと、ますますその思いを強くする。
この日、冒頭の挨拶に立った高梁市に本社を置く建設会社大月組社長の大月一真氏が「自宅は浸水したものの、普段通り仕事ができるとともに、今日の社員共育大学に参加できたことを大変嬉しく思っています。皆さんも参加できた意義・意味を考えつつ、明日からの仕事に頑張っていただきたい」等々と語りかけると、多くの参加者が同意を表すかのように深く頷いていたのが強く印象に残った。
即物的だが、いつの間にか人材をして「人財」と呼ぶケースが多くなったことからもわかるように、規模の大小を問わず人こそが企業にとって最大の資産である。経営資源として一般に「ヒト、モノ、カネ、情報」の4つがあげられるが、「モノ、カネ、情報」を活用し、最大限に有効化するのはあくまでも人であり、その点からしても人こそ最も重要な経営資源であることは疑いようがない。
中小企業家同友会加盟企業が当初、物理的な人手不足解消のための共同求人活動からスタートしたにもかかわらず、合同入社式・新入社員研修へと進み、次いで多くの同友会では入社2~3年の社員が対象のフォローアップ研修や女性キャリアアップ研修、さらに中堅・幹部社員、役員・経営者研修へと人材育成の対象者を広げてきているのは、企業の力が構成する社員の総合力に左右される点からしてきわめて自然な動きである。