「ごくありふれた薬」が誘因となる…浅い“意識障害”
〈せん妄〉
せん妄とは、術後や薬剤の影響などで出現する急性の浅い意識障害です。一過性のものですが、時間や場所の認識が混乱する見当識障害や、幻覚など、認知症とよく似た症状が出現します。
ぼーっとして受け答えが鈍くなることもありますし、家の中を歩き回ったり、引き出しをかたっぱしからあけ、中身を出してしまったりなどの無意味な行動や作業を繰り返すこともあります。時には前触れもなく叫ぶなど、興奮状態になる場合もあります。
こうした症状は認知症でもよく見られますが、認知症は症状が少しずつ出始め、長期間にわたりその頻度や深刻度が高まっていくのが典型的な症状のあらわれ方です。一見「認知症かな?」と思うような症状でも、それが急にあらわれた場合は、せん妄である可能性が高いといえます。
せん妄は発熱や体の痛み、便秘、睡眠不足などが誘因となったり、薬がせん妄を引き起こしたりすることもしばしばあります。風邪薬や胃薬、かゆみ止めといったごくありふれた薬から、頻尿治療薬、睡眠薬、抗不安薬など医療機関で処方される薬まで、誘因となり得る薬は多岐にわたります。一般的に思われているよりも身近な病態といえます。
せん妄が疑われる場合、医療機関では患者の体に痛いところはないか、食事や水分は十分とっているか、熱はないかなど全身をチェックし、服薬状況も確認したうえで、せん妄の誘因になっている可能性があるものをとりのぞき、様子をみます。
それで劇的に症状が軽快することも少なくありません。適切な診断と対応を行えば、せん妄は治療が可能です。
なお、せん妄はすでに認知症にかかっている人も起こすことがあります。つまり、今まで認知症と診断されていない人がせん妄の症状を起こした場合は、せん妄だけなのか、せん妄と認知症を併発しているのか、医療機関側は見極める必要があるということです。
認知症の人であっても、誘因がはっきりすればせん妄による症状は治療で改善します。
ただし、「これも認知症の症状だろう」と家族が思い込んでしまうと、治療がされないままになってしまいます。まして本人からは、せん妄の誘因になり得る体の痛みや発熱などの不調を訴えないことも多々あります。
よって、今まで見られなかった症状が急にあらわれた場合は、家族が気づいてせん妄を疑い、主治医と相談することが望まれます。