(※画像はイメージです/PIXTA)

患者は継続受診時において、熟考的思考で検討しながらも、最終的には「家から遠くても長時間待ってでも、この医師がいい」と直観的思考を優先するという。これは医師への信頼からくる感情的な情報処理である。。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「ここが私の病院」最終的には直観的思考で判断

(4)フェイズ3:私の理解者であるこの医師なら信頼できる(直観的思考)

 

フェイズ3では、フェイズ2の【私の理解者】と【問題の解決】がトリガーとなり、【医師への信頼】が形成されていた。患者は、フェイズ2 の要因を認知することにより、次のフェイズ3 に進み、【医師への信頼】を抱いていた。

 

山本(2002)は、患者は医師に対する個人的な信頼等に期待して受診先を選択していることを指摘しており、類似した結果となった。内藤ほか(2004)は、人を信頼するかどうかは、非合理的な思考であることを示唆しており、フェイズ3 の【医師への信頼】は、直観的思考による情報処理だと言える。

 

(5)フェイズ4:ここが私の場所、遠くても待ってもこの医師(熟考的思考で検討しながらも、最終は直観的思考で判断)

 

フェイズ4は、最終ステップである。患者は、【医師への信頼】を持つと、全幅の信頼を寄せて、直観的思考による【医師に任せる】を形成する。この段階になると、患者から「医師から言われる事はどんな指示でも従う、他の医師ではダメ」との思いが発言されていた。

 

熟考的思考である【物理的条件2】は、初回受診先選択での【物理的条件1】とは一部異なっていた。『規模』、『近さ』は、初回時と継続時のいずれも抽出されたが、継続受診先選択の【物理的条件2】では、通院しているからこそ形成される『利便性』が新たに加えられていた。

 

また、『設備』は、初回受診先選択では検査ができる施設という基準により抽出されたが、継続受診先選択では、リハビリテーションなど治療に関わる内容が含まれていた。なお、すでに病気が確定して治療が行われているためか、『専門性』は抽出されなかった。

 

最終フェイズにおいて興味深いことは、患者は、「家から遠くても長時間待ってでも、この医師がいい」とコメントしていた。つまり、熟考的思考による【物理的条件2】より、直観的思考による【医師に任せる】が優先されていた。

 

これは医師に対する感情的な情報処理であり、強い思いを感じた。直観的思考は、感情的な印象ですべてを評価しようとする傾向にあり、現状維持を好み、一旦信じたことを裏付けるバイアスがかかることが指摘されている(Kahneman, 2011)。

 

継続受診先選択では、それらの影響も推測できる。さらに、Kahneman and Frederick(2002)は、人間は印象を生み出す直観的な思考を信頼しており、熟考的な情報処理は、直観的な情報処理を必ずしも覆すことができないことを示唆している。

 

また、Victoor et al.(2012)は、医師は患者の情報処理が合理的に進むと想定しているが、患者は合理的な選択ができないことを指摘している。本研究における患者のコメントは、これらの理論を物語っていた。

 

杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長

 

 

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

杉本 ゆかり

千倉書房

「患者インサイト」とは、患者が心の奥底で考えている本音であり、医療に関する意思決定である。この患者インサイトを明らかにすることで、患者への情報提供や情報収集など、患者との効果的なコミュニケーション理解できるよう…

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