患者のポジティブで直観的思考による情報処理
(3)フェイズ2:問題を解決してくれたこの医師なら大丈夫そう(熟考的思考と直観的思考)
フェイズ2は、初回受診において慢性疾患で通院が必要だとわかり、継続受診に適した診療所かどうかを選択する意思決定プロセスである。
中村(2001)は、一般的に顧客はリピート購買を繰り返しながら次第に固定客になっていくことを指摘している。本研究では、診療所の患者が「この医師(診療所)に継続的に受診しよう」と判断したのは、1~3回目の早期受診時であり、その後、繰り返し受診する中で継続の意思を強めていった。
フェイズ2では、【問題の解決】【他者の評価】【私の理解者】【感情】【医師の人間性】【コミュニケーション】の6つのカテゴリーが抽出された。患者は、これらの要因を認知することで、フェイズ3の【医師への信頼】を抱く意思決定プロセスを辿っていた。患者は、フェイズ2に示した要因を認知しないと医師への信頼を形成しない。
この中で、【問題の解決】と【私の理解者】の2つの点が重要なキーポイントである。この2点はすべての患者が重要視しており、インタビューにおいて継続受診の優先要因を確認した際、いずれも上位に挙がっていた。
1つ目の重要なキーポイントは【問題の解決】であり、『病気の改善』『納得の治療』『医師の技量』『病気の発見』が含まれる。患者は、「今の生活があるのは先生のお陰、治してもらえた」という強い思いを持っていた。
【問題の解決】は、患者の本来の受診目的であり、根底に存在していた。これは患者による事実の認知であり、熟考的思考による情報処理であると言える。例えば、『病気の改善』は、生活習慣病を含む慢性疾患のため完治したことではなく、病状が良くなっている患者の自覚である。病気の事実を受け入れ、理論的に身体的状況を理解し、病気は継続しているものの、治療を受けながらより良く生活できているという状況判断が行われている。
『納得の治療』は疑問の解決であり、他の医療機関では病名が曖昧だったが、今の医師は明確に教えてくれる、データでわかりやすく説明してくれるとの話があり、自分なりではあるものの病気を理解しており、納得していることが伺える。したがって、これも熟考的に情報処理した結果であると考える。
ただし、この熟考的思考はフェイズ1 での【物理的条件1】と同様に、情報の非対称性により、専門的に治療や医師の技量を判断することは困難であるため、自分が評価できる範囲内で熟考的に情報を探り、問題の解決を判断していることが推測できる。
ドクターショッピング行動の要因として、Dimatteoet al.(1979)は、不十分な治療を指摘しており、Andylim et al.(2018)は、治癒、改善の欠如、病気の悪化、治療に対する不満が要因であることを明らかにしている。つまり、ドクターショッピング行動の改善は、継続受診につながり、本研究の【問題の解決】は類似した結果となった。
2つ目は、【私の理解者】である。これは、『説明しなくてもわかってくれる』『気持ちを理解』『からだを理解』『私に適した医療管理』『コントロールしてくれる』を示している。
患者は、「担当の医師は、私を理解してくれる。こちらが何も言わなくても検査を指示してくれて、説明しなくても、どうしたいのか、痛みや状況をわかってくれる。」と答えている。医師は、患者を理解しているからこそ、検査の指示や説明を受けなくても状況の把握ができる。
しかしながら、一般的に医師は記憶だけではなく、カルテを見て患者の病気と状況、背景を確認し、医師の経験値を併せて治療をすすめている。つまり、批判的にみれば、医師はその患者だけを特別に理解しているわけではない。患者が医師に対して抱く【私の理解者】の強い思いは、患者のポジティブで直観的思考による情報処理によるものだと考えられる。
【私の理解者】は、本研究のファインディングであり、患者と医師との密接で良好な関係性が受診先選択の重要な要因であることを示している。
また、本研究のファインディングとして、【他者の評価】も挙げられる。患者は、他の患者の反応を通して医師を評価しており、判断材料にしていた。他者が担当医師を承認している様子は、リコメンド機能と同様の効果を生み、「この医師で間違いがない」と受診の継続を確定する材料となっていた。