「退職後の虚無感」が招く破滅への第一歩

榎戸恭平(えのきど・きょうへい)氏(67歳)は、40年勤めた大手電機メーカーを定年退職して2年。年金は夫婦で月21万円、貯蓄は退職金の残りも含めて2,500万円ありました。

妻の洋子さんと二人暮らしの日々は、平穏そのものでした。かつての仕事への情熱も今はどこへやら。朝起きて食事をして、テレビを観て、また食事をして、昼寝して……。

同じような毎日の中で、「退屈だな」と、ふと思う瞬間が増えていました。洋子さんは趣味の編み物に没頭しているのに、自分は何もできずあっという間に1日が過ぎていきます。このまま年だけ取っていくのだろうかと考えていたある日、学生時代の古い友人、木村さんからメッセージが届きました。

「久しぶり、最近どうしてる? 久々に会おうよ」

毎日暇な榎戸氏は、もちろんと答えました。まさか、この一通のメッセージが、彼の人生を根本から変えることになるとは夢にも思いませんでした。

木村さんは、競馬、競輪はもちろん、FXや仮想通貨、バイナリーオプションなど、あらゆる投資に手を出す男でした。最初は興味半分で話を聞いていましたが、木村さんの華々しい成功談に徐々に惹かれていきました。

そして後日、榎戸氏は競馬に挑戦してみることにしました。退屈な毎日にちょっとの刺激があってもいいだろうと考えたのです。すると驚くほど的中し、わずか10万円の投資で30万円が簡単に手に入ったのです。

いわゆるビギナーズラックでしたが、「自分には才能があるのかも」と考えた榎戸氏は、徐々に賭け金を増やしました。勝つか負けるかの刺激にすっかりはまってしまったのです。しかし、勝てたのは最初の何回かだけ。次第に負けが込んでいきました。その負けを何とか取り戻そうと、競輪、オートレースと、次々と手を出していきました。

そうして、長年にわたって汗水流して貯めてきた老後資金を食いつぶしていきました。