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アマゾンは明日にでも「教育市場」も支配できる
■教育
世界の教育市場も、食物連鎖の頂点に立つ怪物たちの目には、いいカモに映っている。
2020年の中国の教育市場規模は、4538億元(約7兆2608億円、1元=16円)と見られている。中国の有力SNSを手がけ、京東に18%出資しているテンセントは、同社が掲げる「スマートエデュケーション」に進出すべく注力している。
これは幼稚園・小中高校・職業学校、生涯学習までカバーする総合的な教育プラットフォームで、「公平性、個性重視、インテリジェント化を強化した教育づくり」を進めるという。同社は10億以上のアクティブユーザーを抱えているだけに、スマートエデュケーションのようなプログラムが完全に浸透した場合、驚異的な力を持つ。
同様にアリババも教育市場に食い込んでいる。現在、家庭学習支援アプリ「帮帮答(バンバンダー)」(「ちょっと教えて」の意)を提供している。さらに、アリババ傘下の動画投稿サイト「優酷」は先ごろ、動画による家庭学習プラットフォームも立ち上げた。このアプリは、中国版Slackとも言うべき同社のテレワークツール「釘釘(ディンディン)」(英語名ディントーク)とともに、中国で爆発的に成長する教育市場への進出の足がかりとなった。
小売り支配を進めるアマゾンの戦略から推測するに、アマゾンは教育市場でも特に標準化しやすいボリュームゾーンでの支配をめざすだろう。そう考えると、すでに有効な駒を持っていることに気づく。何しろ、世界最大のオンライン書店を抱え、自前の出版事業も整えている。おまけに多くの消費者がアマゾンの書籍閲覧用の機器や音声支援の機器などを保有する巨大エコシステムを確保していて、教材、テクノロジー、対話型カリキュラムで構成される教育パッケージの開発環境は整っている。
しかも、アマゾンが教育分野に強い関心があることは、周知の事実だ。アマゾンの通販サイトには「教育」というページがあり、教育市場向けの多彩な製品・サービスが並んでいる。カリキュラムや教材から、教育関係者向けクラウドサービスまで、教える側にも学ぶ側にも必要なものが何でも揃うバーチャル大学をめざしている。書店もその要素の1つだ。
こうした怪物企業の参入を受けて、教育市場は小売市場のような様相を呈するはずだ。一握りの高級ブランド、つまりMITやスタンフォード、オックスフォードのような世界の一流校が頂点に立って社会の上位10%のエリートの需要に応える一方、大衆寄りの領域は低コストで誰でも歓迎の基礎教育を担う巨大グローバル企業が支配することになる。
小売業界と同じで、一流と格安の中間辺りで、名門のブランドでもなく、さりとて利便性に欠け、安上がりでもないような学校は、怪物に料理される運命にある。
言い換えれば、アマゾンなどの怪物企業に担える教育市場が存在するのだ。それも、桁外れに大きな市場である。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント