「患者満足の期待水準」何が提示されているか
③期待の水準と期待形成の困難性
一般的に、消費者は望ましい結果を得られることを期待して行動することが指摘されており、もともと持っていた期待に沿って刺激を知覚し受容する(田中,2008)。
期待は、患者満足の一面であると捉えられており(Larsen & Rootman,1976)、欧米の多くの患者満足研究において、期待が重要視されてきた。この期待には様々な水準が考えられ、期待について用語の意味が広いため、様々なタイプの期待を区別する必要があり、どのような期待を回答の基礎として使用するのかを研究の際には記述するべきであると考えられている(Pascoe, 1983)。そのため、医療における期待レベルを具体的に測定する質問票の開発が求められている(Thompson & Sunol, 1975)。
では、どのような患者満足の期待水準が提示されているのか、整理したものを示す(図3)。Stimson and Webb(1975)は、① Background(背景)、② Interaction(相互作用)、③ Action(行動)の3種類の期待カテゴリーを識別している。
①背景の期待とは、医師への相談や治療プロセスにおいて蓄積された学習から生じる明らかな期待である。②相互作用の期待とは、医師との対話などに関わる患者の期待であり、質問の仕方や技術、医師により与えられる情報の水準などに対する期待を示す。③行動の期待とは、薬の処方や紹介、アドバイスといった医師が行うであろう行動に関する期待である。
この3種類のうち、相互作用の期待が最も重要であると主張している。
Fitton and Acheson(1979)は、医師の行動に対する期待を、①理想(Ideal)の期待と②実際(Actual)の期待の2種類に分けている。①理想の期待とは患者が医師に行ってほしいと思う行動であり、②実際の期待とは実際に起こるであろうと患者が考える行動を示す。
Thompson and Sunol(1995)は、この理論に2種類の期待を追加させ、次のとおり患者の期待を4種類に分類している。
①理想的な期待(Ideal)は、サービスや結果についての理想的な状態であり、こうあってくれたら良いと思う期待である。例えば、最先端の治療の提供や最新の薬を処方してもらいたいなどである。
②予測する期待(Predicted)は、過去の個人的な経験や他者からの情報、メディアなどの知識を源泉とした、こうであろうと予測する期待である。例えば、いつも血圧測定があり血圧の薬が処方されるから、今回も血圧測定があり血圧の薬が処方されるだろう、テレビの健康番組では、しびれが伴う頭痛の場合はMRI 検査をしていたが、今回は自分も同じ症状だからMRI 検査を受けるのであろうと予測するものである。
③規範的な期待(Normative)は、こうあるべきという規範的な期待である。例えば、痛みがあるから医師は鎮痛剤を出すべきである、薬が効いているか、体調について医師は患者に聞くべきであるなどの、あるべき期待である。
④曖昧な期待(Unformed)は、言葉では表現できない曖昧な期待であり、患者は正しく期待の認識ができない。例えば、からだがだるいが、良くわからない。きっと治療すればよくなるだろうなど、自分の状態が認識できず、何にどのような期待を持てば良いかわからないが、医師がどうにかしてくれるであろうと思う曖昧な期待である。
島津(2005)は、医療をはじめとするプロフェッショナル・ヒューマンサービスの固有な特性として期待の不明確性を指摘しながらも、期待を分類している。患者が抱く期待には明確なものもあるが、不明確な期待もあり、①曖昧な期待、②明確な期待、③暗黙の期待の3種類の期待概念について説明している。
①曖昧な期待とは、期待が明確に形成できず何をどのようにしてもらいたいのか期待がわからないものを示す。島津は医療における期待は、この曖昧な期待が基本であると考えている。②明確な期待とは、曖昧な期待がサービスの授受を通して明確に形成され、徐々に現実的で明確になってくるものである。③暗黙の期待とは、利用者が明確に意識していないけれど、当然だと思っている期待である。
なお、一般的な期待水準について、小野(2010)によると、消費者が商品・サービスの購入を検討している際に抱く期待には、①理想(こうあってもらいたい)、②予測(こうだろう)、③規範(こうあるべき)、④最低許容(少なくともこれくらいは)があり、代表的な期待としては、予測的期待(WillExpectation)と規範的期待(Should Expectation)がある。
こうした期待水準は顧客の経験量が高いか低いかにより異なる。予測的期待は、顧客のその商品・サービスに関する経験量が少ないとばらつく可能性がある。しかし、顧客が経験を重ねると予測自体がより確かなものになり、期待が安定してくると考えられる。
以上のように、欧米を中心として期待概念が患者満足に影響を与えている事が報告されているが、一方では、期待形成の困難性も主張されている。そもそも期待はそれ自身を分析的に確かめるのが難しい概念であり、満足において期待がどのような意味を持ちどのように分類されるのか明らかにする試みは無い(Stimson & Webb, 1975)。
実際に過去の患者満足研究において、期待水準を明確に記述した患者満足の文献は見当たらず、質問紙での表現により、期待の水準を推測するのにとどまっている。