過去から経験の積み重ねで満足が決まる
②パフォーマンスモデル
期待と知覚されたパフォーマンスの過去からの経験の積み重ねにより、患者満足が形成されると考えるモデルが、パフォーマンスモデルである(Johnson& Fornell, 1991)。期待とパフォーマンスへの認識に対する正確性と信頼性は、経験が増え続け、過去の実績情報が蓄積されるにつれて向上する。豊富な経験を持つ顧客にとり、期待は強く安定しておりパフォーマンスの認識と概ね一致し、ある時点では期待とパフォーマンスの認識が区別できなくなり、最終的には一致する可能性がある。その結果、満足が得られる(Johnson& Fornell,1991)。
これは累積的満足モデルと考えられる。この累積的満足とは、一般的に顧客満足は1回ごとの購買と消費経験についてだけでなく、何回かの経験を踏まえたうえでの感情的状態として捉えられている(小野,2010)。したがって、顧客は製品、サービスの過去の購買経験すべてを対象として満足を評価している。
患者満足においても、期待におけるパフォーマンスモデルの概念が反映されており、経験の積み重ねが結果として患者満足の評価に影響する。患者の期待は、蓄積された経験に照らして絶えず変化しており(Locker & Dunt,1978)、初診患者は期待を持つための経験や知識を持っていないため、期待形成が困難であるが、期待は経験が広がるにつれて変化している(Thompson &Sunol, 1995)。
患者の経験に注目したパフォーマンスモデルの類似型について、実証研究が報告されている。Amyx et al.(2000)は、米国南西部の州立大学の18~25歳までの学生152名を対象とした実験により、仮説検証を行った。対象者は49%が男性で、51%が女性であった。実験において被験者は、上気道感染症に罹患している設定のシナリオを読み、質問に回答した。
その結果、良好な治療の成果を経験した患者は、悪い治療の成果を経験した患者よりも満足しており、患者の経験が患者満足に影響を及ぼしていた。この患者の経験は、ポジティブ、ネガティブなど経験の種類により、満足への影響が異なっていた。
Jackson et al.(2001)は、①患者の満足と相関する患者または医師の特性は何か、②これらの相関は時間の経過とともに一定か、について仮説検証を行った。対象は、米国の一般的なウォークインクリニック(予約なしで受診できる診療所)に通う500人の成人で、94%が軍の退役者であった。事前調査として医師の診察前に患者の症状の重症度等をアンケートにより調査し、診療所で診察後に患者満足の調査を行った。
さらに、2週間後、3カ月後に未達成の期待についてアンケート調査を郵送にて行った。その結果、身体的症状を伴う65歳以上の患者の52%が訪問直後の診察で十分満足し、2週間後では59%、3カ月で63%と時間の経過とともに増加していた。訪問直後の満足は、未達成の期待の少なさ、症状の原因の説明、医師と患者のコミュニケーションと強く相関していた。しかしながら、2週間後、3カ月後の満足は、患者の根底にある症状の経過に影響しており、症状が改善していない患者は満足する可能性が低い結果となった。
また、患者の満足は、症状の重症度、機能的状態の変化・改善ではなく、絶対的な障害のレベルと相関していたことが明らかになった。結果として、達成されていなかった期待は、時間経過により達成されて患者満足が増加し、様々な経験による複合的な判断が満足に影響を及ぼしていた。