パンデミックで注目される郊外の復興
コトキンは、チャップマン大学の特別研究員で、国立シンクタンクの都市改革研究所(テキサス州ヒューストン)の常任理事も務めている。彼は、次のように言う。
<20世紀初頭にパンデミックが都市に襲いかかったときは、社会は低密度化で対応した。マンハッタンは、1920年に250万人近かった人口が1970年には150万人に減少した。同様の経過はロンドンやパリの中心部でも見られた。周辺部に流出する人口が増えるにつれて、都市は安全度が高まり、衛生面も改善された。>
コトキンも、雇用や富、手ごろな住宅を効率よく分配する手段として、郊外復興を挙げている。しかし、郊外について再考するとすれば、「CO2排出の低減、在宅勤務の増加、通勤時間の短縮を想定して設計」すべきだとコトキンは言う。このような見直しを進めるには、専用道を走行する自律型の乗り物の出現も含め、これまでにない低コストのパーソナルな移動手段がほぼ確実に必要になる。
ただし当面は、都市計画関係者のいう「アクティブな交通手段」(徒歩、自転車、スクーターなど)に重点を置くことになろう。目下のパンデミックで、世界中で都市のロックダウン措置が取られ、大気の質が劇的に改善された。これは、主要都市の多くがパンデミック後に活動を再開した際に、ある程度は実現したいと考えている改善点である。
一例を挙げれば、すでにミラノなどの都市では、パンデミックで自動車の交通量が減ったのを機に、このまま自動車利用の抑制を維持したいと考えており、大がかりな整備計画に乗り出している。その一環として、市内の道路約35キロ分を歩道や自転車専用道に変更するという。同様の見直しは、ニューヨークなど主要都市でも進んでいる。
このことは、小売業にとって何を意味するのか。小売りが交通路や通勤ルートを軸に発展してきたことはご存じのとおりである。レストラン、ガソリンスタンド、コンビニエンスストアなどはいずれも、毎日自宅と職場を往復する大量の通勤者を捕まえようと、それなりのコストを投じて立地を選んでいる。
広告やメディアのエコシステム全体が、通勤客の目に触れることを意識した戦略で成立してきた。それを裏付けるデータがある。アメリカの公共ラジオ局NPRは、職場との行き帰りに放送を楽しむリスナーが減少したため、2019年第2四半期から2020年第2四半期までの間に、1四半期分のリスナーを失った計算になる。
他にも、毎日の人の移動を当てにして成り立っている媒体は多いが、同じような状況に陥っていることは想像に難くない。屋外広告や交通広告、あちらこちらにあふれるデジタルスクリーンなど、いずれも毎日の通勤者の注意を惹こうとしていることは言うまでもない。
そんな通勤に関して、見直しの動きがすでに出ている。KPMGの調査によると、アメリカではテレワークで自動車通勤が10~20%減少する見通しだ。また、カナダで実施された調査でも、「パンデミック収束後、どのような方法であれ、とにかく職場に通勤する」との回答は25%減少するなど、同様の結果が見られた。困るのは、日々の通勤ラッシュの人波を相手にしたビジネスだ。当てにしていた市場の4分の1が毎日、家にこもっている状態で、今後、戻ってこない可能性があるからだ。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント