(※写真はイメージです/PIXTA)

新型コロナ感染拡大でアメリカで最も打撃を受けた交通機関は通勤電車だったという。その一方で、バスの乗客は比較的安定していたという。この差はいったいなぜ生じたのか。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

コロナ禍でアメリカの通勤電車が壊滅的打撃

東京という都市には、さまざまな良さがあるが、なかでも公共交通機関は世界一の充実度と効率性を誇る。電車や地下鉄は清潔で効率的、しかも基本的にダイヤどおりに運行している。パンデミックが東京に襲いかかったまま、なかなか好転しない状態が続いているうちに、興味深い動きが見られるようになった。

 

自動車教習所への入所者が増えたのである。このこと自体が奇妙なわけではない。実はこうした入所者の多くは、すでに運転免許保有者だったのだ。

 

日本では、免許を持っていても、都会暮らしゆえにクルマを持たないペーパードライバーが増えている。こういった人々が車の購入前に、復習がてら改めて運転を練習するペーパードライバーコースを受講しているのである。ペーパードライバーコースの受講者がどのくらいの数に上るのか正確なデータはないが、地方都市はもちろんのこと、東京でも万単位はいるとの声もある。

 

コロナ禍、アメリカの通勤風景は大きく変わったという。(※写真はイメージです/PIXTA)
コロナ禍、アメリカの通勤風景は大きく変わったという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

公共交通機関の利用をためらう都市生活者が、自らの運転による移動に切り替える動きは、世界中で見られるようになった。どれほどの恐ろしさなのか。グーグルが各地の移動状況をまとめたモビリティ・レポートによれば、2020年3月から4月の公共交通機関の利用はシカゴやサンフランシスコなどの都市で実に97%減となった。

 

同レポートで興味深かったのは、最も打撃を受けた交通機関が通勤電車だった点だ。こうした電車は、ホワイトカラー職の比較的裕福な通勤者の利用が中心だったが、勤務場所の自由度が高まったために利用が激減したと見られる。

 

一方、ワシントンやロサンゼルスなどの都市部のバス利用者数はもう少し安定していて、依然として乗車定員の3分の2程度が埋まっていた。この差が生じた背景としては、バス通勤者に低所得世帯が多いことが挙げられる。言い換えれば、交通手段を選べる人々が、その機会を利用したということだ。

 

つまり、在宅勤務と自分専用の移動手段が組み合わされば、朝の通勤風景が変わっても不思議ではない。アメリカでは何十年もの間、自動車運転者数が減少の一途をたどってきたが、この流れがひっくり返る可能性もある。同じ現象は、1990年代から運転者数が急激に減り始めたイギリスでも見られる。

 

今日の交通システムも、ご多分に洩れず工業化時代に発達したシステムであり、何百万もの人々が毎日、自宅から職場や学校までの決まったルートを通う工業化社会を前提に構築されたネットワークである。

 

ところが、人口が散らばり、仕事や学校は場所の制約がますますなくなってオンライン化が進み、遠距離通勤や頻繁な通勤を強いられることなく能力を発揮できるようになれば、交通機関を見直す動きも出てくる。ウイルスが潜む地下鉄やタクシー、電車に毎日詰め込まれて運ばれると考えたら、恐怖感で尻込みしてしまうからだ。ジョエル・コトキンもそう考える1人だ。

 

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小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

ダグ・スティーブンス

プレジデント社

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