テクノロジー企業とエリート大学の提携が実現?
■デジタルを使った教育革命が始まった
今日の教育市場は、さまざまな意味で、ここ20~30年にわたり、小売業界を映す鏡になっている。小売店と同様に、多くの教育機関は何十年もの間、デジタル革命に背を向け、教育という商品の効率化、生産性向上、経済性向上につながる技術投資から逃げてきた。学生の成績よりも、収益、利益、ブランドの名声を優先してきた産業と言える。誰もが分け隔てなく享受できる教育づくりという使命は忘れ去られている。
多くの国々では、高等教育は、かさみ続けるコストに加え、学生と保護者の双方にとっても右肩上がりの費用と経済負担を強いる教育界のネズミ講的様相を呈している。学費の高い上流校・名門校と学費の安いコミュニティカレッジ(公立の2年制短大)の両端の格差が激しく、その間にある学校は明確な位置付けも価値も欠いているような業界だ。そして、カスタマイズやクオリティではなく、単位という名の商品の“出荷数”を目標に掲げ、学習の商品化を進めてきたシステムでもある。
コロナ禍で、このようなシステムの弱点があっさりと露呈した。原型である工場学校が1世紀前に誕生して以来、未曾有の規模で中断に追い込まれる死角があったのだ。
先ごろアメリカで実施された大学の財務状態に関する調査で、次の事実が明らかになった。
・アメリカ全体で500校以上が財務的に厳しい状態にあると判断された。
・1年次の秋期入学者数が2009年度以降で初めて前年割れとなった大学は約1360校に上った。30%近くの大学で、2017~2018年度の学生1人当たり授業料収入が2009~2010年度を下回った。
これでは盤石な基盤とは言い難い。また、『ネイチャー』誌の調査では、次のような実態が浮かび上がった。
<すべての大学が財務上の重大な問題を抱えている。ジョンズ・ホプキンス大学(メリーランド州ボルチモア)など、資金力のあるアメリカの私立大学でも、来年度は数億ドル減となる見込みだ。イギリスでは、全大学で入学者の落ち込みが予測されることから、来年度は少なくとも25億ポンドの減収となる。>
その結果、授業料は際限なく値上げが続き、リターンは急激に先細るばかりのシステムになっている。裕福な家庭の出ならともかく、平凡な家庭に育った普通の学生が、かなり重荷になるローンに手を出すこともなく、充実した教育を受けられた時代は、もう遠い昔の話である。たとえば、アメリカの学生の借金総額は、2019年に1兆5000万ドルに達している。これは韓国の年間GDPをわずかに下回る額に相当する。
高騰を続ける授業料は、いったいどこに行くのか。先ごろイギリスで実施された調査によれば、授業料とその他の収入のうち、純粋な教育費用に使われるのは半分にも満たない。大部分は、建物の保守、図書館、IT、経営管理、マーケティングに支出されているのだ。
それでいて、対面講義の代わりに、劣化版のオンライン授業でお茶を濁すような産業が、このままでいられるわけがないと、作家でアドバイザーのスコット・ギャロウェイが予想している。隔週刊誌『ニューヨーク・マガジン』の2020年5月号が、ギャロウェイを取り上げ、次のように指摘する。
<ポストパンデミックの未来は、(中略)世界最大級のテクノロジー企業とエリート大学の提携が相次ぐだろう。MIT@Googleとか、iStanfordとか、Harvard×Facebookといった具合だ。ギャロウェイによれば、こうした提携により、大学はオンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッド型の学位、手ごろな学費、新たな価値を売りに、入学者数を劇的に増やし、高等教育のありように地殻変動をもたらすという。>