患者は望んで病気になっているわけではない
また、医療サービスは、信用財でもある。そのため、受診後であっても、品質である治療の適正について、効果があるのかどうか、これが最良なのか否かなど、患者には正確に判断できず、医療サービスを提供する側を信用して利用することになる。ただし、信用した場合でも、医療は専門的で高度なサービスであることから、治療や薬がどのように作用したのか、患者が正確に理解するのは困難である。
さらに、医療サービスにおける品質は、医師をはじめとする医療従事者の技量により左右され(変動性)、その技量は、医療の品質を決定するとともに、患者満足を生み出す源泉となる。
つまり、医療サービスとは様々な性格があり、医師をはじめとする医療従事者の技術、知識、情報提供、患者対応、精神的支援、治療、設備の利用など、技術的、経済的、精神的な側面を持つ。確かなことは、医療サービスは、患者の肉体、精神に直接関与し、患者や家族の生活そのものに関わるという点である(厚生労働省,1995)。
だからこそ、医療サービスの提供においては、患者が感じるリスクや誤解、医師をはじめとする医療従事者と患者との認識の違いを小さくする必要がある。そのためには、患者へのわかりやすい情報提供が重要であり、患者との有効な関係づくりは不可欠である。
良質な医療サービスの提供について、医療保健2035の提言が示すとおり、我が国の医療においては、安心、満足、納得を得ることができる持続可能な保健医療システムの構築が必要であり、保健医療サービスと患者の価値を適合させた質の高いより良い医療サービスの提供が求められている(厚生労働省,2015)。
医療の質評価の先駆者であるDonabedian(1980)は、患者満足は医療の質評価の一部であり、患者やその家族による治療に関する技術的な質の評価に加えて、患者、および、その家族が判断した主観的な医療の良さや質であると主張している。医療の評価は、長い間医療関係者の医学知識が優先されがちであった。しかし、いまや患者中心の医療に変わり、患者の権利を第一に考えることが医療行為の原則になっている(Committee on Quality of HealthCare in America,and Institute of Medicine Staff,2001)。
なお、一般的なサービスの受給者と医療サービスの受給者である患者の大きな違いは、患者は望んで医療機関に通い、受診しているわけではないという点である。通常は顧客がそのサービスを望み、金銭を支払い、サービスを受けている。例えば、便利なものが欲しい、美味しいものを食べたい、より良いものを学びたいなど、顧客の積極的な要求、好きなどの感情により、サービスを選択して購入する。
一方、医療サービスを受ける患者は、望んで病気になっているわけではない。患者も家族も、医療機関に行かざるを得ず、病気による痛みや不安など、困難な状況下で、医療サービスを受けている。医療サービスを提供する側は、この根本的な違いを忘れてはいけない。
杉本 ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長