医療サービスは患者に何をもたらすのか
■顧客満足の理論を活用し、患者満足の要因を探る
患者満足の過去の研究を紐解いたうえで、患者満足モデルを構築し、患者を対象とした実証研究により、患者満足の要因と継続受診、クチコミである他者推奨意向との因果関係を明らかにする。
■顧客が現在利用しているサービス提供者を切り替えるスイッチング行動に着目し、類似する行為である、ドクターショッピング行動の正体を探る
ドクターショッピングとは、同一疾患の治療において、医師の紹介なしに患者の自己都合により医師を複数交代し、転院による継続受診の中断や重複受診をする行為である(杉本,2019)。患者が医療機関をスイッチし、他の医療機関に変える理由について過去の研究を確認し、継続して受診してもらうための要因を整理する。また、継続受診の要因について、患者を対象とした実証研究により明らかにする。
■患者の受診先選択において、どのような意思決定が行われているのか、患者の考え方の好みである思考スタイルを探る
患者の受診先選択において、どのように情報処理が行われ受診先を決定しているのかを捉えるため、受診先選択の意思決定プロセスを検討し構造化を図る。また、考え方の好みや思考の癖である、思考スタイルにおける熟考型思考と直観型思考の二系統に患者を分類し、受診に関する情報処理の個人特性を検討する。
以上の理論を活用し、患者の心理の深層を探り当てる。
(2)医療サービスとは何を指すのか?
マーケティング理論のバイブルである、Kotler and Keller の『マーケティングマネジメント』によると、サービスとは無形の不可分であり、変動性と消滅性を有する製品のことを指す。そのため、通常は品質管理、供給業者の信用、適応性が求められる(Kotler & Keller,2006)。無形の不可分とは、形がなく、分けることができないことを示す。
この不確実でわかりにくいサービスの品質を消費者に伝えるための方法として、コミュニケーションが存在する。
具体的にサービスとは、医療や交通、通信、娯楽、教育など、「形のない財(無形財)」を示し、特に医療は、知識や技術をもとにした高度で専門性の高いサービスと言える。
現代では、「モノを購入すること」から「サービスを利用すること」へと支出の構造が変化している。
サービスにおいては、利用することにより得られる結果が求められ、昨今では、単純な消費から、利用によって得られる満足感や感動といった喜びが重要視される(山本,2007)。真のロイヤルティを形成する基盤は顧客満足にあり、顧客の満足を高めるためには、優れたサービスの提供が不可欠である(Lovelock&Wirtz,2011)。
医療サービスの本質を理解するために、サービスの要素を医療にあてはめてみる(表1)。
例えば、治療に関する技術の提供や患者の精神的な支援には形がないし(無形性)、医療機関がサービスを提供(生産)するのと、患者が受診して治療を受ける(消費)のは同時である(同時性)。治療に関する処置、手術などの技術や治療に関わる診断などの知識は、貯蔵ができず、前もってサービスを在庫としてどこかに保管して置くこともできない(消滅性)。
患者の症状に関する個別性と診断、その説明などは密接に関連しており、それぞれを切り分けることはできない(不可分性)。患者の体質、病状、治療、回復、求めるものは、患者により異なり、その質を標準化することは難しい(異質性)。そして、治療を提供したら、それをなかったことにすること(=返品)はできない(不可逆性)。
そのうえ、サービスは経験しなければ品質がわからない、経験財という性質を持っている。経験財の特徴は、サービスを受けてみなければその良し悪しを判断できない点にある。したがって、医療サービスにおいては、受診後に治療やそれに付随する対応などの質が評価される。この評価は人の主観により判断され、それぞれにより感じ方は異なるものである。