在宅勤務で生産性は13%向上し、離職率は低下
■在宅勤務は本当に有効なのか
簡単に言えば、答えはイエスのようだ。
パンデミックに伴う学校閉鎖を受け、在宅勤務者にとっては子供の世話など余分な仕事が増えたわけだが、コロナ前に実施された調査によれば、在宅勤務は生産性や従業員満足度の面では明らかなプラスになることがわかっている。
シートリップ(携程旅行網)という中国のオンライン旅行予約サイト運営企業について、スタンフォード大学が調査した結果がある。上海オフィスの経費削減を検討していた同社が500人のコールセンタースタッフを採用し、ランダムに半数を選んで在宅勤務実験を実施した。
この実験を取り上げた論文によれば、不動産経費が節約できても、在宅勤務組の生産性低下で相殺されると見込んでいた。ところが、蓋を開けてみると、まったく逆の結果となった。生産性は13%向上し、その内訳は、9%がシフトごとの労働時間増加(休憩時間と病欠の減少)、残る4%が1分当たりのコール数増加によるものだった。同じ調査で、スタッフの仕事に対する満足度が向上し、総合的に離職率低下につながっていることもわかった。
これとは別の1000人以上の在宅勤務者を対象にした調査では、生産性向上の一因として、年間16.8日多く働いている事実が明らかになった。これは、毎日の通勤時間がなくなったことが原因と見られ、実際に調査対象者の年間の総通勤時間は平均17日で、労働時間増加分と符合する。
ほかにもメリットが期待できる。第1に、オフィス内の密集度が下がれば、全体的に従業員の健康増進につながる。ニューヨークや香港など外出制限命令が効果を上げた都市では、コロナ禍の大流行にブレーキをかけただけでなく、インフルエンザ流行期の劇的な短縮にも効果を発揮した。たとえば、香港では2019~2020年のインフルエンザ流行期が、過去5年の平均と比べて63%も短かったのである。2003年の香港でのSARS流行時にも、同様の短縮効果が見られた。
第2に、通勤距離の制約がなくなるため、採用可能な候補者が劇的に拡大する。
第3に、研究者で作家でもあるマット・クランシーが指摘するように、リモートワーカー間の交流促進効果が調査から浮かび上がった。その証拠は他の分野でも明らかになっている。クランシーは、「アメリカ人の成人の41%が週平均5時間近くオンラインでビデオゲームを他人とともに楽しんでおり、ゲームを通じて、オフラインの場合と変わりのない社会関係資本(相互信頼や互助、絆など)を形成することが調査でわかった」と指摘する。