(※写真はイメージです/PIXTA)

リモートワークによって通勤が不要になり、都心に住む必要はなくなる。住環境に優れて面積も広い住宅が安価で手に入る郊外に移ろう──。世界の大都市で、都心から郊外への「民族大移動」は本当に起きるのか。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

都市が今すぐに消滅するわけではないが…

コロナ禍はオフィスレス化社会あるいはオフィス大幅削減社会の長期的な影響が予期されるのは、サンフランシスコに限らないし、もっと一般化してアメリカ全体に限られる話でもない。パリやロンドン、シドニー、東京といった都市でも、同様の人口流出が進む見込みだ。

 

■都市から地方への人口シフトが進む

 

これがただちに都市の終焉を意味するわけではないが、都市に対する依存度は低下するはずだ。ジャーナリストのサイモン・クーパーは次のように語る。

 

「ズームで経済が回るようになれば、多くの人々がパリを出ていく。パリ10区辺りの2間のアパートと同じ家賃で、田舎の大邸宅が借りられるのだから」

 

街には週に1回高速鉄道のTGVで出かければ十分だろう。大恐慌時代にパリのアパートや店舗、オフィスが投げ売り状態になったが、その再来になるのではないか。

 

パリのような都市が今すぐに消滅するわけではないが、ホワイトカラーの流出による経済的損失もさることながら、その過程で、人々を惹きつけてきた都市本来のエネルギーや活力の大半も失われることになる。

 

パンデミック収束からそれなりに時間が経過した後、経済的な理由で人々が街から出ていく衝撃的な展開はほぼ確実だが、そうなれば、ここを商圏に商売をしてきた小規模の個性的なショップやレストラン、サービス企業は、衰退に向かう。ボストンやロサンゼルス、ベルリンなど、学生の存在に依存する大学街は、例年であれば9月の新年度を迎えると住民数が大きく増加する。

 

ところが、多くの学生が授業料の安いオンライン受講を選択し、たまに対面のやり取りが必要な研究課題や交流イベントのために街に足を運ぶだけとなれば、大学街の住民数は著しく減少する。

 

このように都市の姿は、永遠とまでは言わないまでも、かなり長期にわたってがらりと変わるだろう。老舗オピニオン誌『アトランティック』のコラムニスト、デレク・トンプソンは、次のようにまとめている。

 

<都市の利便性の高さは依然として変わらないだろうが、その利便性は没個性のありふれた景色になる。代わり映えのしないコンビニ、銀行の支店、ファストファッションのチェーン、カフェが軒を連ねるだけである。(中略)都市住民は、一般にチェーン店を見下す傾向がある。それは効率一本槍の機械的な対応だとか内容の貧弱さだとか意外性のなさが原因なのだが、凶悪ウイルスが忍び寄る状況では、こうした画一的な要素がありがたいような、ありがたくないような微妙な存在になる。>

 

とはいえ、注文品の配達、クリック&コレクト(オンライン注文後に自宅以外の場所で商品を受け取るサービス)、店内の安全な対人距離の確保などの措置でパンデミック中も顧客を確保できているのは、まさにこうした全国展開・国際展開をしている画一的な小売りチェーンなのである。勝ち組が利益を手にし、勝利を足掛かりにさらに都市での寡占を進めていく。

 

かつては、ほぼすべての大都市で移民が活力源とされてきたが、各国が驚愕の失業率と経済的損失に対処するなかで、パンデミックの最中はもちろん、パンデミック収束後でさえ、感染拡大防止の観点から、移民枠が大幅に削減される可能性が高い。

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小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

ダグ・スティーブンス

プレジデント社

アフターコロナに生き残る店舗経営とは? 「アフターコロナ時代はますますアマゾンやアリババなどのメガ小売の独壇場となっていくだろう」 「その中で小売業者が生き残る方法は、消費者からの『10の問いかけ』に基づく『10の…

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