アメリカ企業の26%が不動産の削減に乗り出す
膨大なホワイトカラーを抱えるごく一握りの企業が反射的に動いただけのように思うかもしれないが、PwCが先ごろ実施した調査によれば、アメリカ企業の実に26%が不動産投資の削減に積極的に乗り出しているのだ。
それに本音を言えば、ほとんどの企業にとって、オフィスを持つことが効率化や生産性向上のお手本になったことなどないのである。給湯室辺りでは無駄話に花を咲かせているし、休憩室では「冷蔵庫をきれいに使いましょう」といった張り紙が何度も何度も張り出される。
もっと言えば、オフィスには往々にして2つの役割しかない。1つは、会社としての見栄。そしてもう1つは、大量の労働者に対する監視と支配を実現する中央集権メカニズムである。工業化時代では、それなりに意味もあった。それがデジタル社会になって、馬鹿げた理由になりつつあるのだ。
では、このことが小売りにどういう関係があるというのか。それが大ありなのだ。いみじくも『ニューヨークタイムズ』紙のマシュー・ハーグ記者が次のように指摘する。
「地下鉄、バス、電車のラッシュアワーにしても、ビルの新築工事にしても、どうにか生き残っている街角の商店にしても、経済全体がオフィスへの膨大な人の出入りを前提に形成された。レストラン、バー、スーパー、商店は、労働者がオフィスに来なければ経営が成り立たない」。
まったくもってそのとおりだ。たとえばニューヨークのマンハッタンには、毎日150万人以上がなだれ込む。こうした通勤者のわずか25%が在宅勤務になっただけで、マンハッタンのありとあらゆる商売人が影響を感じとるはずだ。商店や食品雑貨店、レストラン、カフェ、ネイルサロンなど、いったいどれほどの店がこうした人の移動を当て込んで商売をしてきたか、考えてみるといい。在宅勤務が主流の未来に、こうした商売をどのような運命が待ち受けているのだろうか。
サンフランシスコやニューヨーク、ロンドン、パリ、香港といった都市は、在宅勤務革命で根本的に変貌を遂げ、こういった街の小売りの風景もがらりと変わる可能性がある。金融危機以降に創出された雇用の70%以上が、アメリカの一握りの大都市に集中していることを考えると、都市化の逆転現象が現実のものとなれば、経済に信じがたいほどの影響を及ぼしそうだ。
サンフランシスコのベイエリアだけで、技術系の労働者は83万人以上いると見られる。このベイエリアの技術系労働者は、ニューヨークシティで金融業に携わる平均的な労働者と比べて、収入が年平均56%も上回っている。控えめに言っても、技術系労働者はサンフランシスコ経済の原動力なのだ。