肺がん末期の夫は「最期は家がいい」
■「あと1か月だったら、仕事を休んで最期まで付き合うよ」
ご夫婦であっても、どちらかに死期が迫っているときにどう反応するかは、やはり千差万別です。G郎さんは60代で肺がんの終末期でしたが、「最期は家がいい」と最初から明確な意思表示があった方でした。
夫婦関係はとてもよさそうでしたが、互いに自立した関係で、G郎さんは病院へもひとりで通っていて、奥さまにはあまり手伝ってもらっていない様子でした。
奥さまは福祉系のお仕事もされていて、介護にはもちろん理解があるのですが、「夫は自立しているし、好きにやらせてあげたい」というスタンスを保っていました。
当初は、G郎さんは在宅医療にはあまり乗り気ではなく「信頼している病院の主治医に、在宅医療を入れたほうがいいと勧められたからとりあえず」というだけの理由で連絡をくれたようでした。訪問診療にもとくにメリットを感じていないので「月に1回来てくれればいいよ」という話になりました。
通常、がんの終末期の患者さんには、少なくとも月に2回は訪問診療に伺います。ただ、この時点ではG郎さんは奥さまにも病状を詳しくは伝えていなかったようで、奥さまのほうも、まだ元気そうに見えるG郎さんの死期がそこまで迫っているとは思っていないようでした。
しかし、がんという病気の最期は、状態が急速に変化するものです。
ついこのあいだまで「とても末期とは思えないね」と元気に過ごしていた方でも、あるとき調子が悪くなり動くのがつらくなりはじめると、そこから亡くなるまでに数週間ということが多々あります。ですが、その病状の経過を説明されていないこともありますし、聞いたとしても、今現在はお元気なので、在宅ケアの必要性を感じられないことがよくあります。
G郎さんも、余命1か月を切ったかもしれないという病状になってきた頃、やはり緊急で訪問することが増えてきました。
どんな人にとっても、動けなくなる自分を想像するのは簡単ではありません。G郎さんも、きっとそうだったのだと思います。
けれども、だんだん身体が動かなくなってきて、ご自分でも、どう過ごすのがよいのかを考えているようでした。かといって、仕事を休んでもらってまで妻に面倒をみてもらうというのは、どうなんだろう―と。
「迷惑をかけるから病院に行くべきなんだろうけど、やっぱり家にいたい」
奥さまの助けを借りずにひとりで何とかしたいとG郎さんは葛藤していましたが、やはり助けは必要です。