本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『アジアニューズレター(2021/8/16号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。
本ニューズレターは、2021年8月16日までに入手した情報に基づいて執筆しております。
第1回乃至第6回に続き、第7回は、バングラデシュ不動産抵当権に関する法制を取り上げます。
第1回:権原の基本的性質(https://gentosha-go.com/articles/-/32010)
第2回:権原及び権利の登録制度、譲渡の手続(https://gentosha-go.com/articles/-/32828)
第3回:譲渡の手続(https://gentosha-go.com/articles/-/33591)
第4回:譲受人の法定権利、外国人の権利(https://gentosha-go.com/articles/-/34276)
第5回:取引時に発見される法的論点(https://gentosha-go.com/articles/-/35680)
第6回:不動産抵当権の設定(https://gentosha-go.com/articles/-/35689)
1. 抵当権設定者の権利
(1)受戻権(right of redemption):抵当権設定者は、被担保債権の弁済が完了した場合、1882年財産移転法(以下「財産移転法」といいます。)に基づき、抵当権者から抵当不動産を受け戻す権利を有します。それに伴い、抵当権者は、以下の責任を負います。
a. 抵当権者の占有又は権限の下にある抵当証書及び抵当不動産に関する全ての文書を引き渡すこと。
b. 抵当権者が抵当不動産を占有している場合には、当該占有を引き渡すこと。
c. 抵当権設定者の費用において、抵当不動産を抵当権設定者又は抵当権設定者が指定する第三者に移転させること※。
※ 抵当権設定者が受戻権を有する場合、抵当権設定者は、抵当権者に対し、抵当不動産を受け戻す代わりに、被担保債権及び抵当不動産を第三者に移転させるよう要求することができ、その場合、抵当権者は、当該要求に基づきそれらを移転させる義務を負います。但し、本規定は、抵当権者が抵当不動産を占有をしている場合には適用されません。
実務上、受戻しを行う際は、受戻証書を作成し関連登録事務所に登録します。また、2012年委任状法及びその下位規則に基づき、取消不能の全権委任状を失効させる旨の書面を作成し、1908年登録法に従い登録を行います。
(2)付加物に対する権利:抵当不動産を占有する抵当権者が、抵当権の存続期間中に当該抵当不動産に付加物を生じさせた場合、抵当権設定者は、別段の契約がない限り、抵当権者に対して当該付加物に対する権利を取得します。
(3)改良に対する権利:抵当不動産を占有する抵当権者が、抵当権の存続期間中に当該抵当不動産の改良を行った場合、抵当権設定者は、抵当証書に別段の記載がない限り、当該改良に対する権利を取得します。また、抵当権設定者は、当該改良に対する費用を支払う義務を負いません。
(4)賃貸権:抵当証書に別段の記載がない限り、抵当不動産を適法に占有している抵当権設定者は、以下の一定の条件の下、抵当不動産を賃貸することができます。
a. 当該賃貸借が、当該不動産の通常の管理の過程において、かつ、その地域の法律、慣習又は慣行に従って行われること。
b. 当該賃貸借には、合理的に設定可能な最良の賃料が確保されるものとし、賃貸借の権利に対する対価及び前家賃は支払われないこと。
c. 当該賃貸借に、更新に関する条項が含まれていないこと。
d. 締結日から起算して6ヵ月を経過する日までにその効力を生ずること。
e. 建物を賃貸する場合、賃貸借期間はいかなる場合にも3年を超えないものとし、賃貸借契約には、賃料の支払い及び期限内に賃料が支払われなかった場合の占有回復条件に関する条項が含まれていること。
2. 抵当権者の権利
(1)被担保債権訴求権:抵当権者は、以下に該当する場合、被担保債権の弁済に係る訴訟を提起する権利を有します。
a. 抵当権設定者が自ら被担保債権を弁済する義務を負っているとき。
b. 抵当不動産の全部若しくは一部が滅失した、又は担保価値が減少した場合において、抵当権者が抵当権設定者に対し、損なわれた担保価値を補うに足りる追加の担保を提供する合理的な機会を与えたにもかかわらず、抵当権設定者がこれを提供しなかったとき。
c. 抵当権設定者の不正行為又は不履行により、抵当権者の担保の全部又は一部が喪失したとき。
d. 抵当権者が抵当不動産について占有を受ける権利を有する場合において、抵当権設定者が占有の引渡しをしないとき。
(2)抵当不動産保全のための支出をする権利:抵当権者は、以下の目的のために必要な金額を支出することができます。
a. 抵当不動産を滅失、没収又は売却から保護するため。
b. 抵当不動産に係る抵当権設定者の権原を守るため。
c. 抵当権設定者に対する、抵当不動産に係る自己の権原を有効にさせるため。
d. 抵当不動産が更新可能な賃貸借物件である場合において、当該賃貸借を更新するため。
抵当証書に別段の定めがない限り、抵当権者は、元本債権に対する利率、又は固定の利率が定められていない場合には年率9%の利率で、上記の目的のために使用した金額を元本債権に加算することができます。
(3)抵当不動産の保険に関する権利:抵当権者は、対象不動産の性質上保険を掛けることができる場合、火災による損失又は損害に対して抵当不動産に保険を掛けることができます。当該保険に支払われる保険料は、元本債権に対する利息と同一の利率、又は固定の利率が定められていない場合には年率9%の利率で、元本債権に加算されます。
(4)売却金又は収用補償金に対する権利:以下に該当する場合、抵当権者は、売却金又は収用補償金から被担保債権の全部又は一部の弁済を受けることができます。
a. 抵当不動産に係る公租公課の滞納又は賃料未払いにより抵当不動産又はその一部が売却され、抵当権者が売却金を得た場合。
b. 1894年土地収用法又はその他法令に基づき、抵当不動産若しくはその一部又はこれらに係る権利が収用され、抵当権者が補償金を得た場合。
3. 抵当権の実行
抵当権者が、2003年Money Loan Court Actに記載のあるバングラデシュの指定銀行若しくは金融機関又は外国金融機関である場合、抵当権の実行は同法に従って行われ、当該抵当権者は、裁判所の関与なく抵当不動産を売却できます。
その他の抵当権者については、以下の財産移転法の規定が適用されます。
(1)受戻権終了(フォークロージャー)及び売却権:抵当証書に別段の記載がない限り、また下記(2)に記載される場合を除き、抵当権者は、財産移転法に基づき、フォークロージャー訴訟を提起する必要があります。フォークロージャー訴訟は、被担保債権の弁済期が到来したあと、抵当不動産の受戻し決定が出される前に提起されなければなりません。フォークロージャー訴訟において、抵当権者は、裁判所に対し、抵当権設定者の抵当不動産に対する受戻権を完全に喪失させる決定又は当該不動産の売却決定を求めることができます。
(2)売却権:抵当権者は、以下の要件を満たしている場合、裁判所の関与なく不動産に対する担保を実行し、抵当不動産を売却することができます。
a. 裁判所の介入なしに売却できる権利が、明示的に抵当証書において抵当権者に付与されているとき。
b. 抵当証書の締結日の時点において、抵当不動産又はその一部が、ダッカ、チッタゴン又はナラヤンガンジ県に所在していたとき。
c. 元本債権の弁済を求める通知書が抵当権設定者に対して送達されたとき。
d. 支払期日から3ヵ月間未払いの利息が、500タカ以上であるとき。
今泉 勇
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士
ヤンゴン事務所副代表
中島 朋子
西村あさひ法律事務所 弁護士