本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『アジアニューズレター(2021/4/16号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

本ニューズレターは、2021年4月16日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

 

第1回(権原の基本的性質:https://gentosha-go.com/articles/-/32010、第2回(権原及び権利の登録制度、譲渡の手続:https://gentosha-go.com/articles/-/32828)に引き続き、第3回は、バングラデシュの不動産の譲渡手続(譲渡前、譲渡時及び譲渡後)のうち、譲渡時及び譲渡後に関する手続を取り上げます。

(1)譲渡時

2014年登録規則が定める様式に基づく売渡証書の締結及び登録により、不動産の権原が移転します。法令上、売渡証書には以下の情報が記載されなければならないと定められています。

 

i. 不動産の性質

 

ii. 不動産の価額

 

iii. 座標軸と境界線が記載された不動産の地図

 

iv. 過去25年間における不動産の所有権の概要

 

v. 供述者が、本証書の締結前においていずれの者にも当該不動産を譲渡しておらず、かつ、当該不動産に対する権原を適法に有することを証明する宣誓供述書

 

売渡証書は、バングラデシュの弁護士又はライセンスを持つ証書起草者により起草され、当該起草者の身元が売渡証書に記載されている必要があります。売渡証書には両当事者の写真を貼付する必要があります。また、両当事者は、写真、証書の最初の頁の裏面及び登録事務所の登録簿に、それぞれ左親指の拇印を行わなければなりません。

 

売買契約と同様に、売渡証書の言語に関する要件はなく、英語又はベンガル語のいずれでも作成可能です。ただし、法令上、登録官は、その記載言語が理解できないことを理由に譲渡文書の登録を拒絶することができるとされています。

 

加えて、売渡証書の登録時に、以下の書類を登録事務所に提出することが求められています。権利台帳の変更手続がなされておらず、売主又はその前権原保持者の氏名が最新の権利台帳(通常はB.S.コティアン)に記録されていない場合、売主は当該不動産を譲渡することはできず、そのような譲渡は1882年財産移転法53C条に基づき、無効となります。

 

i. 売主が相続以外の方法で不動産の所有権を取得したときは、当該売主の氏名が記録された当該不動産の最新の記録台帳

 

ii. 売主が相続により不動産の所有権を取得したときは、当該売主の前権原保持者の氏名が記録された当該不動産の最新の記録台帳

 

登録前又は登録時に、売買価格に対する一定の料率の登録手数料、印紙税、地方税(municipal tax)及び譲渡所得税を納付する必要があります。両当事者間で別段の合意がない限り、売主の譲渡所得を含め、売渡証書の登録に関する費用は、通常、買主が負担します。実務上、これらの手数料や費用は、指定の銀行が発行する支払指図書又は公的な支払証明書に、管轄の登録事務所が指定するコード番号を記載し納付されます。

 

政府への必要な手数料の全額の支払い後、売主及び買主は、それぞれの証人と共に双方の面前において、売渡証書を登録することができます。なお、登録時には、売主及び買主は、原則として、実際にその場に出向いて登録手続を行う必要がある点に留意が必要です。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

(2)譲渡後

売渡証書の登録後、売渡証書の受領書が管轄登録所より発行されます。この受領書は、買主が保管します。売渡証書の原本については、登録簿(Balam Book)に記録するために登録官が保管します。売渡証書が登録簿に登録されると、受領書と引き換えに、売渡証書の原本が買主に返却されます。

 

買主は、土地局担当補佐官に対し権利台帳の変更申請を行い、自己の氏名を記録するよう義務付けられています。買主は、売渡証書の登録により譲渡が成立した後、適用法令に従い、土地局担当補佐官に申請を行わなければなりません。申請書には、譲渡の詳細事項が記載されていなければならず、また、手続費用も併せて納付される必要があります。

 

土地局担当補佐官は、当該通知を受領後、適用法令に従い、権利台帳の変更手続を開始し、対象不動産の持分の共同所有者に通知を行った上で、異議申立ての期限を設定し、申立てがない場合は権利台帳の変更手続を行います。買主は、権利台帳の変更後、村落レベルの管轄土地管理事務所から、変更後の権利台帳を受領する必要があります。変更手続が終了し、対象不動産の権利台帳に買主の氏名が記載されると、買主は自己の名義で管轄の土地事務所に土地開発税の支払いを行うことができるようになります。

 

変更後の権利台帳及び土地開発税の支払証明書は、買主が当該譲渡不動産を占有していることの証拠となります。

 

権利台帳の変更手続に要する一般的な日数は、申請日から約60~80日程度です。なお、バングラデシュ政府は、近時、買主が法人である場合に利用できるファストトラック変更手続を導入しており、当該手続方法による処理日数は8日以内とすることが想定されています。また、土地省が近時発行した通達によれば、オンライン上で即座に変更手続ができる制度を開始するよう指示がなされています。

 

 

今泉 勇

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

ヤンゴン事務所副代表

 

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