本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『アジアニューズレター(2021/2/18号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

本ニューズレターは、2021年2月18日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

1. はじめに

バングラデシュは、約1億7000万人の人口を抱える一方、国土面積は14万7000km2と人口に対して面積の狭い国であることから、不動産は非常に重要であり価値の高い資源のひとつとなっています。

 

しかし、その高い重要性にもかかわらず、不動産取引に関する包括的な法体系は整備されておらず、また、政府による記録保管の不備や、官僚的な組織体制等を背景に、不動産関連取引の実務は複雑なものとなっています。その結果、民事訴訟における紛争の多くは、なんらかの形で不動産の権利が関連しており、裁判所で何十年にもわたり争われる場合もあると言われています。

 

(画像はイメージです/PIXTA)
(バングラデシュ・ダッカの街並み/PIXTA)

 

本連載では、上記複雑さを踏まえつつ、不動産法制の枠組み及び留意点について以下の観点から概説します。また、本連載では全て、輸出加工区、経済特区、ハイテクパーク等の特別区に位置しない一般の不動産を前提としています。

 

1 権原の基本的性質(今回)

2 権原及び権利の登録制度

3 譲渡の手続

4 譲受人の法定権利

5 外国人の権利

6 取引時に発見される法的問題

7 抵当権

2. 権原の基本的性質

バングラデシュの1882年財産移転法上、土地及び建物の権原は、(a)自由土地所有権(freehold)及び(b)不動産貸借権(leasehold)の2種類に大別されます。

 

a)自由土地所有権

 

①概要

自由土地所有権者は、期間制限なく、土地の排他的な所有権を保有します。不動産の自由土地所有権は、売買、贈与又は交換により取得することができます。自由土地所有権を譲渡する場合の最も一般的な形態は売買です。一般に、譲渡人が契約能力を有し、かつ、両当事者が譲渡手続を適式に履践している限り、自由土地所有権の譲渡に対する制限はありません。また、自由土地所有者が死亡したときは、当該不動産の自由土地所有権は、相続人に移転します(死亡した者の宗教により、異なる相続法が適用されます)。

 

②契約能力

法令上、未成年者、精神上の障害を有する者等は、契約能力を有しません。また、威迫、威圧、詐欺、虚偽又は錯誤により同意をした当事者は、当該契約を取り消すことができます。契約の重要な要素について契約の両当事者に錯誤があった場合、当該契約は無効となります。

 

③譲渡及び登録

法令上、不動産に係る権利の譲渡手続については、全て登録証書により行われなければなりません。財産に関する登録済みの文書は全て、当該財産に関する口頭による合意又は宣言に対して優先する効力を持つとされています。具体的には、譲渡証書は、当該不動産の全部又は実質的部分が所在する関係登録事務所に登録しなければならないとされています。

 

④譲渡の制限

上記のとおり、一般に、譲渡人が契約能力を有し、かつ、両当事者が譲渡手続を適式に履践している場合、自由土地所有権の譲渡に対する制限はありません。ただし、(i)法令上譲渡が禁止されている場合、(ii)対象不動産に関する裁判が係属している場合、(iii)抵当権が設定されている場合など、譲渡が制限される場合も定められています。また、共同不動産の持分を共同所有者ではない者に売却する場合、法令上、共同所有者に優先的な買取権を認める手続が定められています。

 

b)不動産貸借権

 

①概要

不動産貸借権は、所定の有価物と引き替えに、財産を使用する権利の移転と定められています。貸借期間は、当事者間の合意により定めることができますが、法令上、契約不存在の場合は、農業又は製造目的でなされる不動産の貸借は年次契約と、その他目的でなされる不動産の貸借については月次契約とみなされます。

 

②譲渡及び登録

自由土地所有権と同様、貸借権の譲渡についても上記 a)の能力、手続及び制限が適用されます。また、貸借権の譲渡の場合、これらに加えて貸借契約が定める条件に従う必要があります。貸借証書は、法令により、関係登録事務所への登録が義務付けられています。

 

③賃借人の権利義務

当事者間で別途合意しない限り、貸借人は、法令上、例えば以下の権利及び義務を有します。

 

i)火災、嵐、洪水等の不可抗力により、不動産の重要部分が貸借の目的に対し適さなくなった場合、当該貸借は、貸借人の選択により無効とすることができる。

 

ii)賃貸人が不動産に対する修理義務の履行を怠った場合、賃借人は自らこれを行い、当該修理費用に利息を付した額を賃料から控除することができる。

 

iii)貸借の終了後であっても、貸借を受けている不動産を占有しているあいだはいつでも、地面に付着させた全ての物を除去することができる。

 

iv)不動産に係る自己の権利の全部又は一部を、絶対的又は抵当権若しくは転貸により譲渡することができる。

 

v)不動産を使用収益する権利を有し、対価として、賃貸人に対し、対価又は賃料を支払う義務を負う。

 

vi)貸借の終了時における原状回復義務に加え、当該不動産を占有の開始時と同等の良好な状態に維持する義務を負う。貸借期間中は、賃貸人及びその代理人が当該不動産に合理的な回数立ち入り、その状態を検査することを許可する。

 

vii)不動産を、自己のものとして使用する場合に払う通常の注意をもって、使用する義務を負う。貸借の目的以外の目的で使用し又は他人に使用させてはならない。



今泉 勇
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士
ヤンゴン事務所副代表

 

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○執筆者プロフィールページ 今泉 勇

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