本ニューズレターは、2021年5月17日までに入手した情報に基づいて執筆しております。
第1回(権原の基本的性質:https://gentosha-go.com/articles/-/32010)、第2回(権原及び権利の登録制度、譲渡の手続:https://gentosha-go.com/articles/-/32828)、第3回(譲渡の手続:https://gentosha-go.com/articles/-/33591)に引き続き、第4回は、バングラデシュ不動産の譲受人の法定権利、及び、外国人の権利に関する法制を取り上げます。
1. 譲受人の法定権利
(1)譲受人に移転される権利
1882年財産移転法(以下「財産移転法」といいます)によれば、財産が譲渡されると、譲渡人がその時点で移転することができる当該財産及びその法的附随物に係る全ての権利が、直ちに譲受人に移転します。譲渡の対象が土地である場合、法的附随物には、当該土地に設定される地役権、譲渡後に発生する当該土地の賃料及び利益、及び当該土地の地面に付着する全てが含まれます。
他方、譲渡対象の不動産に係る権利を売却若しくは処分することを絶対的に制限する条件又は制約を譲受人(若しくは譲受人から権限を与えられた者)に付した譲渡は禁止されます。そのような条件又は制約は、一定の場合を除き、無効とされます。同様に、特定の方法による不動産の享受又は利用を命ずる指示は、一定の例外を除き、譲受人に対して拘束力を持たないとされます。
(2)善意の譲受人の保護
財産移転法により、善意の譲受人(transferee in good faith)にも一定の法的保護が与えられています。以下が一例です。
●譲渡契約が締結され、譲渡のための条件が合理的に確認され、譲受人が占有を取得し、且つ譲受人が契約を履行している場合、もし法令上必要な譲渡証書の登録が完了していないとしても、譲渡人は、譲受人に対し、原則として当該不動産に関する権利を執行することはできません。
●譲渡人の債権者を妨害又は遅滞させる目的でなされた不動産譲渡は、当該債権者が選択した場合無効とすることができますが、その無効の効果は、対価と引き換えに当該不動産を譲り受けた善意の譲受人の権利に影響を及ぼすものではありません。
●無権原の譲渡人により譲渡がなされた場合であっても、譲受人が当該譲渡人の譲渡に係る権原につき合理的な注意をもって確認し善意で行動した場合には、当該権原の不存在を理由に当該譲渡を無効とすることはできません。
その他にも、1908年登録法上、文書が未登録である場合、不動産の譲受人は、その後登録済みの文書に基づいて権利を取得した者に対して、当該契約の特定履行を請求することができますが、当該権利者が譲受人の契約の存在を知らず、対価を支払い且つ善意であった場合、譲受人は、当該権利者に対し、契約の特定履行を請求することはできません。
2. 外国人の権利
(1)法令上の規定
バングラデシュ憲法は、財産権や所有権をバングラデシュ国民に対して与えています。一方で、同憲法や不動産譲渡に関する主要法令において、外国人による不動産の取得については特に言及がなく、取得できるとも取得できないとも定められていない状況にあります。
(2)外国人・外資企業による不動産取得の実務
実務においては、外国人が不動産に関して何らかの行為を行う場合、バングラデシュ政府機関から特定の許可を取得するよう求められることが多く見受けられます。また、バングラデシュの登録事務所も、外国人への不動産の譲渡は法令上明示的に認められていないことを根拠に、禁止されているとの見解を現時点では取っているようです。そのため、外国人への不動産譲渡手続を行うことは、実務上極めて困難な状況です。
また、不動産賃借権については、賃貸人は外国人への譲渡に当たり明示的に制限を定めることができます。例えば、バングラデシュ首都整備庁(RAJUK)は、自己が所有する不動産賃借権を外国人に売却することを禁止しているため、外国人は、RAJUKが所有する土地区画に係る賃借権を取得することはできません。
もっとも、外国人投資家は、一部の規制セクターを除き、バングラデシュに100%外資企業を設立することが認められており、またバングラデシュで設立及び登録された外資企業が不動産を購入することは、制限されていない状況にあります。
今泉 勇
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士
ヤンゴン事務所副代表
中島 朋子
西村あさひ法律事務所 弁護士