(※画像はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひが発行する『N&Aニューズレター(2025/3/31号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひまたは当事務所のクライアントの見解ではありません。

I 調査委員会における悉皆調査(他に不正はないか)

執筆者:木目田 裕

1. 他に不正はないか(悉皆調査)

企業不祥事があれば、危機管理として、当局の捜査・調査等に対応するとともに、事実関係を解明して原因分析・再発防止策を構築する必要があります。そのために、企業が第三者委員会などの調査委員会を作るという実務が普及しています。

 

本稿では、こうした第三者委員会などの調査委員会による調査における、いわゆる「悉皆調査」について検討します。

 

まず、悉皆調査とは何かですが、一言で言えば「既に表面化している不正のほかには、不正はないか」(他にないか)を網羅的に調査することです。

 

例えば、ある製品について品質不正(認証不正、検査不正を含みます。以下同じ)が判明した場合に、その製品で他にも品質不正がないか、あるいは、他の製品で品質不正がないかどうか、という調査です。カルテルやインサイダー取引等であれば、他にもカルテルやインサイダー取引等が社内で行われていないかどうか、という調査です。ハラスメントや性加害の問題についても、事案によっては、こうした悉皆調査が必要になります。

 

2. 悉皆調査の目的・意義

こうした悉皆調査には3つの目的・意義があります。

 

一点目は、原因分析・再発防止策の構築のためです。特に真因や企業風土・組織文化にまで切り込んだ調査のために悉皆調査は必要です。品質不正を例にすれば、1つの製品で1つの品質不正があっただけなのか、他にも品質不正があったのか、品質不正があったのが特定の事業分野の特定の製品だけなのか、それとも企業の事業全般に広く蔓延していたのかどうか、蔓延していたとすればいかなる事情によるのか等々です。

 

そういった事実関係が判明しなければ、品質不正が発生したことの真因(納期逼迫などの表面的な原因ではなく、企業風土や組織文化にまで踏み込んだ原因)は解明できません。

 

再発防止策についても、既に表面化している事案だけでなく、伏在している事案にまで踏み込んでメスを入れていかなければ、実効的な再発防止策などを講じることはできません。

 

二点目は、危機管理のためです。企業が品質不正問題につき調査委員会を作って事実関係や原因解明、再発防止策構築を行って、それを社長が株主総会や記者会見等で説明したとしましょう。株主やマスコミ等からは、「他にはないのか」と問われます。そこで、社長が「そこまで調べていません。他にもあるかもしれません」としか答えられないのでは、到底、その企業は、品質不正問題によって失われた信用を回復することはできません。

 

品質不正問題がいったんは収束したとしても、その企業で後から後から新たな品質不正が次々に五月雨式に表面化するようでは、調査委員会などの調査自体がおよそ信用されませんし、企業の再発防止策や立ち直り等も信用されず、新たな調査委員会による再調査、経営陣の入れ替え要求などにつながります。

 

悉皆調査を行って、他に不正があれば、それを是正したり、当局への自主申告や告訴・告発を行うなど、この機会に一挙に膿み出しをしておくことが企業の再出発のためには重要となります。

 

三点目は、不正を行っていた役職員のためです。品質不正でもカルテル等でも、私がしばしば驚くのは、悉皆調査を行うと、役職員が20年前、30年前に自分が関わっていた不正について申告することです。そうした役職員は、20年前、30年前に自分が関与していた不正のことを、それ以来ずっと忘れることはなく、罪の意識を持ち続けてきたのでしょう。

 

企業が悉皆調査を行って、過去の古い不正であっても決着がつけば、役職員は過去をこれ以上抱え込んでいる必要もなくなります。その意味で、悉皆調査は、不正を行っていた役職員のためでもあります。

 

このように、悉皆調査は、原因分析・再発防止策の構築、危機管理、役職員のためという3つの目的・意義を有しており、不正の調査において必須な調査です。

 

3. 悉皆調査の方法

悉皆調査の方法ですが、未だ表面化していない不正の解明につながる情報(端緒)を把握することが最も重要です。

 

平時は、内部通報・公益通報窓口や内部監査などがこうした端緒を把握するためのルートの1つです。

 

有事、つまり、既に企業不祥事が表面化して第三者委員会などの調査委員会を設けて調査を行っている場合には、主に、役職員に対するアンケートや情報提供窓口の設置、メール・レビュー等のフォレンジック調査などを通じて、端緒となる情報を収集します。

 

以下、悉皆調査の方法に関し、実務上、問題になる点について説明します。

 

(1)アンケートにおける検討課題

アンケートでは、以下の点を検討する必要があります。

 

●アンケートの対象者の範囲:全役職員か特定部署か、子会社・関係会社を含むか等。

●アンケート事項:不正が「他にないか」だけでなく、企業風土や組織文化に関する設問、会社に対する提案等を含めるか。選択肢による回答方式と自由記述方式による回答方式をどのように配置するか等。

●回答期限:できるだけ幅広く漏れなく情報収集するには、役職員がアンケートを受け取ってから回答するまでの期間が長い方がよい。アンケートを受け取って1、2週間で不正をやっていたと容易に申告できる者はあまりいない。

●アンケートの配布や回収の方法:会社支給PC・スマホ等がない従業員への配布

●回収の方法、ウェブサイト入力だけでなく、紙や電子メールによる配布

●回答を併用するか等。

●匿名回答を認めるか、記名回答に限定するか(後述(2)参照)。

●社内リニエンシーを併せて行うかどうか(後述(4)参照)。

 

(2)匿名回答か記名回答か

匿名回答を認める方が、情報を集めやすくなりますが、抽象的な回答の場合には調査対象を特定できないという問題があります。さりとて、記名回答(回答者が氏名や所属部署など回答者を特定する情報を明らかにしてアンケートに回答するもの)だけにすると、役職員が不正を申告することによる報復や不利益取扱、職場での孤立等を恐れて、不正を申告しない可能性が高くなります。

 

それぞれプロコンがあることから、実務上、記名回答に限定し、匿名回答を認めないことにするが、回答先を調査委員会(外部の弁護士等)に限定し、回答を受領した外部弁護士等は、回答者の同意がない限り、会社に対して回答者の身元を秘匿するという方法(以下「外部窓口方式」といいます。)をとることが多いように思います。

 

外部窓口方式もそう簡単ではなく、大企業で多数の役職員を対象にアンケートを行う場合、回答をウェブサイトに入力してもらうという方式をとるとしても、不正があったとの具体的な回答や、企業風土等への指摘や会社への提案の記載がある回答など、その回答数が数百、数千となると、会社の実情に疎い外部の弁護士が、回答内容を読んで消化して、調査の優先順位などの対応方針を検討するだけでも相当の時間と労力がかかります。

 

なお、外部窓口方式であっても、アンケート回答をとる際に、回答者の身元を調査委員会事務局の会社側スタッフ(コンプライアンス部や内部監査部など)に伝えてもよいかどうかといった項目を設けておき、回答者が明示的に承諾している場合には、回答内容を会社側スタッフに伝え、会社側スタッフに第一次的に検討してもらうなど、会社側スタッフと分担しながら調査を進めていきます。

 

(3)回答者の身元を秘匿した上での調査方法

アンケート回答者が特定できている場合、まずは外部弁護士や会社側スタッフが不正を申告している回答者に連絡をしてヒアリングをしますが、回答者としても、勤務時間中に職場を抜けることができず、家族がいるから自宅でのウェブ・電話ヒアリングも受けたくない等といった場合も少なくなく、ヒアリングの日時場所の設定は回答者への配慮が必要です。

 

回答者のヒアリングで不正の具体的な内容をある程度把握した上で、不正の担当者やその上司らのヒアリングや客観資料の収集(例えば、品質不正であれば、改ざんされた検査成績書と改ざん前の生データの収集など)を進めていくことになります。

 

この場合に最も神経を使うのは、回答者の身元の秘匿です。回答者が身元を会社側に全面的に開示してもよいと同意しているケースは少数です。

 

品質不正を例として、ある検査のラインで不正があったとしましょう。往々にして、回答者は、そのラインでの担当者の一人です。だから、いきなり、そのラインの担当者や上司のヒアリングを始めたり、資料を徴求しようとすると、その職場の中で犯人捜しが始まったり、調査委員会側が保有している情報の内容から、不正を申告した者がこの人物だと容易に特定されてしまう危険があります。

 

そこで、調査に着手する方法を工夫する必要があります。個別の事案の内容に応じて、その都度、やり方を考えながら工夫していく必要がありますが、例えば、不正があったとされたラインだけでなく、周辺のラインの担当者らを含め、合計数十名を数週間くらいかけてヒアリングします。ヒアリング対象者が多くなるので、調査委員会と会社側とで分担しながらヒアリングを進めていきます。

 

当然のことながら、不正の申告があったラインや製品をピンポイントで特定して質問したりはしません。フラットに「品質不正をしたことがあるかどうか。あれば、どの製品のどのラインで、いつ頃のことか」といった聞き方をしていきます。資料の収集についても、もちろん、問題のラインだけでなく、その周辺のラインについても同じように資料収集・検討を行います。

 

そして、数週間の数十名に対するヒアリングや資料収集を経て、不正の疑いが判明したとして、本来のターゲットであったラインについて深掘りしたヒアリングや資料収集に入っていきます。

 

数十名のうち(あるいは、そのライン担当者ら数名のうち)誰かが自白したためにこの不正が判明したのか、それともヒアリングではなく、資料検討(例えば、検査成績書と生データの突合など)によって不正が判明したのか、調査を受けた役職員からはできるだけ分からないようにします。

 

よしんば、「あの人が調査委員会に自白したのではないか」との憶測があったとしても、「調査委員会の調査で追及されて話してしまった。仕方がなかった」という見方や弁解も、できるだけ可能になるようにします。以上は、アンケート回答者の身元を秘匿しつつ、調査に着手する際のやり方の一例です。

 

定期的な内部監査という形をとるなど、個別具体的な事案の内容に応じて、様々なやり方があります。なお、こうした情報提供者の身元を秘匿しつつ調査する方法は、平時に内部通報を端緒として行う調査についても等しく当てはまります。悉皆調査については「調査に時間がかかりすぎではないか」との指摘がなされることがありますが、調査現場の実態を踏まえた上での指摘かどうかは検討が必要です。

 

上記で品質不正を例にして述べたとおり、順調に進んでも、アンケートの配布から回答期限まで1か月かかり、アンケートの分析と回答者本人のヒアリングを経て、回答者の身元を秘匿しつつ調査に着手するまで1か月かかり、それからようやく本格的な調査に入ることができるわけです。本格調査も、検査成績書と生データの突合などの客観的な資料検討にかなりの時間がかかります。

 

このように、1件の品質不正だけでも、ゼロから端緒をとって全容解明するには、数か月から半年以上かかることは珍しくありません。

 

(4)社内リニエンシー

悉皆調査を含め、事実調査では、いわゆる社内リニエンシーを導入するかどうかも問題になります。社内リニエンシーというのは、「役職員が違法不当な行為を発覚前に自主的に申告(つまり「自首」)した場合には、懲戒処分を一切しない、あるいは一段階、二段階引き下げる」と事前に予告して、役職員の自主的申告を促す方法です。

 

必要的減免型(必ず減免する)と裁量型(減免できる)があります。社内リニエンシーは、効果的な反面、モラルハザード問題もあります。例えば、上司の指示で部下が不正を行っていたとして、上司が自主的に申告して懲戒処分を受けず(あるいは、懲戒解雇のところ、減給で済むなど)、他方、部下は懲戒解雇になるというのは、どうしてもバランスが悪いわけです。

 

そのため、社内リニエンシーを導入するにしても、必要的減免型を常設の制度として設ける例はほとんどなく、裁量型が多いと思われます。会社が懲戒処分を判断する上で自主的申告や調査協力を情状として斟酌することは当然なので、裁量型の場合には、殊更に社内リニエンシーという言い方をするまでもないのですが、主として役職員に対するアピール効果(心理的安全性を付与して不正申告を促す効果)を念頭に置いて、「当社は社内リニエンシー制度を設けている」という言い方をしているものです。

 

有事の悉皆調査の場合に限定して社内リニエンシーを用いるのであれば、アンケートであれヒアリングであれ、臨時の時限的措置なのでモラルハザードを基本的に気にする必要はなく、品質不正やカルテル等があった場合の悉皆調査では、必要的減免型で社内リニエンシーを行う例が目立ちます。

 

なお、時限的措置として社内リニエンシーを行う際には、「今回のアンケートで自主的に申告しないで、他の役職員のアンケート回答や将来の調査で不正が判明した場合には、情状が特に重いと評価して、懲戒解雇を含む重い懲戒処分を行う」旨をセットで社内に告知することが必要な場合もあります。

 

4. 悉皆調査と調査期間

(1)品質不正の悉皆調査に時間がかかる理由

前述のとおり、既に表面化して明らかになっている不正と異なり、悉皆調査は、ゼロから不正を全容解明していくことであり、大企業の場合には調査範囲も広くなるため、自ずと調査に時間と労力を要します。

 

この点、インサイダー取引やカルテル等の場合には、悉皆調査といっても、端緒情報が多数出てくるわけでもないので、経験上、連結売上げが年1兆円を超えるような大企業の場合であっても、悉皆調査に要する期間は、通常、2、3か月程度ではないかと思います。

 

他方、品質不正の場合は大変です。特に大規模な製造業の場合、アンケートでの端緒情報の提供が数百、数千となることもあります。アンケート回答者その他の情報提供者の身元を秘匿しながら調査を進めていくためには、前述したとおり1件の品質不正についてゼロから全容解明するだけでは数か月から半年以上かかることが珍しくありません。

 

加えて、品質不正の悉皆調査では、工場等で平時の業務が遂行される中で調査していく必要があります。既に表面化している品質不正であれば、出荷停止やそれに近い状態になっていますから、その製品に関係する役職員はその調査だけに対応すればよいことが多いので、迅速に調査もできますが、不正などが未だ表面化していない(少なくとも確定的に表面化していない)製品の製造ラインについては通常業務を行っているわけですから、調査のためにラインを止めたり生産量を減らすわけにもいきません。

 

資料調査にせよヒアリングにせよ、現実に動いている製造ラインに悪影響を与えないで行う必要があるので、役職員が朝から晩まで調査だけに対応すればよい、というわけにはいかず、時間がかかります。また、調査委員会と会社とで分担しながら調査を進めていくにせよ、会社側のリソースにも限りがあります。さりとて、中途半端な調査をするわけにもいきません。

 

このように、品質不正の事案において、既に不正が表面化している現象面だけではなく、会社全体、グループ企業全体にわたり、悉皆調査を行って、伏在する問題も含め、徹底的に膿み出しをして真因に切り込もうとすれば、自ずから、かなりの時間がかかります。このことは、品質不正事案の調査に従事した経験のある者であれば、自明のことだと思います。そこで、以下では、品質不正を例として、悉皆調査と調査期間の問題について検討します。

 

(2)「悉皆調査は会社側に任せればよい」論について

悉皆調査を全て調査委員会だけで行う必要はなく、その相当部分または全部を会社側に任せればよい、という意見も一部にはあるようです。第三者委員会での調査だけを念頭に置くのであれば、事実関係の一部しか調べていない調査では真因解明などできないという問題点を措く限りは、そうした考え方もあり得るのかもしれません。

 

そもそも、私は、品質不正問題については、特別な事情がない限り、第三者委員会による調査は適切でなく、外部の有識者と社内の役職員とが協働する調査委員会(外部調査委員会、社内調査委員会など名称は多様ですが、本稿では一括して「社内調査委員会」といいます。)の方が適切であると考えています※1

 

※1 拙稿「品質不正の防止に向けて」(弊事務所・本ニューズレター2024年6月28日号)でも述べましたが、その理由は、次のとおりです。本来、品質不正問題は、会社自身が製造する製品の品質、ひいては会社の事業そのものの問題です。会社から独立・中立の第三者委員会に調査を一切委ね、会社は調査に関与せず、第三者委員会から調査結果を受領して実行する、という問題ではなく、会社が自らの手で率先して取り組むべき問題です。また、技術的事項の検討が不可避であって会社の知見が必要不可欠になります。その意味で、調査委員会を作るのであれば、本来在るべき姿は、社内調査委員会だと思います。

 

こうした社内調査委員会の場合、もともと社内の役職員も既に調査を分担しながら、そのキャパシティの目一杯のところで調査を行っているので、「あとは会社側に任せればよい」といっても、調査時間の短縮にはなりません。かえって、外部の有識者との協働(他社事例も含む調査の経験による知見を活かす、ヒアリングやアンケート回答等において役職員の心理的安全性を高める等)という利点を活かすことができないという問題があります。

 

また、品質不正の調査では、検査成績書と生データの突合などの客観的な資料検討にかなりの時間がかかります。これは事実関係や真因の解明のためだけでなく、顧客に説明するためにも必要不可欠なので、調査内容の合理化にも一定の限界があるところです。

 

(3)古い過去の品質不正や重要でない品質不正

端緒情報のうち古い過去の品質不正や、重要でない品質不正を調査しなくてよいといった意見も一部にはあるようですが、過去の古い品質不正にまで遡って事実関係を解明していかなければ、今日まで続く品質不正問題の根源が分かりませんし、品質不正の体質が蔓延した経緯や今日まで是正されなかった理由なども解明できません。現時点で既に表面に浮かび上がって誰の目にも顕在化している現象面だけを見ていても真因など解明できません。

 

また、「重要でない」品質不正といっても、何をもって「重要でない」と判断するかという問題があります。法令違反ではなく契約違反だけなら「重要でない」とも言えません。勝手なトクサイ※2など契約違反(顧客仕様違反)が品質不正問題の大宗を占めます。ヒヤリハット、ハインリッヒの法則、割れ窓理論などが示すように、小さく軽微な問題点の放置にこそ問題の本質が伏在しています。

 

※2 「トクサイ」とは「特別採用」の略語であり、顧客の要求仕様等を満たさない製品を、顧客の同意を得て顧客に納品することです。それ自体には問題はありません。問題なのは、顧客に説明もしておらず、顧客から同意を得ていないのに、工場の担当者らが「トクサイ」と称して、顧客の要求仕様等を満たさない製品を出荷することです。これは品質不正の一態様です。

 

だから、「重要でない」から調べなくてよいという考え方は、真因解明や徹底した再発防止策構築に逆行します。

 

(4)調査委員会費用の高額化

第三者委員会などの調査委員会費用の高額化という指摘との関係では、社内調査委員会方式の場合、外部の有識者(事務局の弁護士を含みます。)と社内の役職員とで作業を分担している上、外部の有識者側の作業内容も会社側にも見えています。この点で、単純に費用だけの観点から見れば、社内調査委員会の方が第三者委員会よりも合理的であるということになります。

 

しかし、そもそも論として、第三者委員会・社内調査委員会を問わず、調査委員会費用の問題については、調査委員会の委員や事務局の弁護士に対する報酬のほか、フォレンジック費用、不適正決算であれば監査法人の追加費用、品質不正であれば顧客対応費用(海外向け製品における、米国等の法律事務所に対する支払費用などを含みます。)など、具体的な費用の中身を腑分けして検討しなければ、意味のある検討を行うことができないと思います。

 

調査委員会の委員の費用及び事務局の弁護士については、日弁連の第三者委員会ガイドラインがタイムチャージ制を推奨しているところ※3、高額化の問題があるとすれば、委員や事務局が無駄な作業時間を費やしているかどうか、委員や事務局弁護士の時間単価が適切なのかどうかを検討する必要があります。

 

※3 日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」の「第6. その他」「2. 報酬」参照。

 

前者の作業時間の点については、特に第三者委員会の場合には(第三者委員会と社内調査委員会との違いは相対的なものにすぎないので、社内調査委員会の場合にも当てはまりますが)、会社側や経営陣らが調査委員会費用の適否を理由に調査内容に介入できる余地を認めることにもなり得るため、簡単な問題ではありません。

 

例えば、第三者委員会から責任ありと指弾された元社長らが、第三者委員会の費用の高額さを理由に新聞テレビへのコメント等で第三者委員会やその委員個人らを攻撃して責任転嫁を図るようなケースもあり得るところです。こうした動きは、弁護士業務に対する誹謗中傷と同様に、弁護士に対する業務妨害の問題にもつながります。

 

後者の時間単価の点についても、一般論としては、日本の法律事務所の単価は、米国、欧州、中国等の大手法律事務所の時間単価よりも低いというのが実情と思います。例えば、私自身の時間単価は米国等の大手法律事務所のアソシエイト弁護士の時間単価よりも低いというのが現状です。こうした実情を踏まえて時間単価についても検討していく必要があります。

 

(5)調査に時間がかかることには良い面もある

調査に時間がかかることには良い面もあります。というのも、調査が続き、会社によるプレス・リリースや報道などもあると、役職員は、会社が本気で徹底的な膿み出しをしようとしていると信じるようになり、いわゆる心理的安全性が高まっていきます。その結果、調査中に、不正(特に、重大な不正)の新たな情報提供が行われるようになります。これも、品質不正に限りませんが、企業不祥事等で不正の調査に従事した経験があれば、実体験していることだと思います。

 

例えば、ある製品で品質不正が現に表面化しており、社長が記者会見で謝罪して、会社が調査委員会を作って調査していると報道がされ、それで、調査委員会が全役職員にアンケートを行ったという場面を考えてください。

 

もちろん、役職員のうち、ある程度の方は、「アンケートで、自分の知っている不正あるいは自分が行ってきた不正を正直に申告しないといけない」、「アンケートの窓口は外部の弁護士だから自分の身元も秘匿される」等と信頼してくれます。しかし、役職員の全員あるいは多数が、直ちにそのように信頼してくれるとは限りません。

 

特に、本当に重大な不正を自分の手で行ってきた役職員の場合には、いくら社内リニエンシーといっても、会社がどこまで本気で問題に取り組むのかが必ずしも明らかでない段階で、自分の上司や先輩・同僚を売ることにもなるような不正の申告※4を行うことができるとは限りません。人はそんなに強いものではなく、利己的でもないのです。

 

※4 品質不正では、関与者の多くは、上司や先輩から不正の手法を受け継いでいたり、上司や先輩・同僚と相談しながら不正を行ってきたため、アンケートにせよ、内部監査や公益通報にせよ、不正と分かっていても、上司や先輩・同僚を売ることになるため、自主的に不正を申告できなかったと、私たちにお話ししてくれます。

 

時間をかけて丁寧に調査を進め、会社の真摯な取組みが継続的に中長期間にわたり社内外に発信されることで、役職員は、徐々に、会社や経営陣、調査委員会を本当に信頼してくれるようになり、後輩に負の遺産を残さないために、上司・先輩・同僚に申し訳ないと思っても、不正を明らかにしてくれる、そのような決断ができるようになっていく、それが人というものです。

Ⅱ 米国司法省及び連邦取引委員会による、労働者に影響を与える事業活動に関する米国独占禁止法ガイドラインの公表

執筆者:山本 壮

1. はじめに

米国司法省(United States Department of Justice。以下「DOJ」といいます。)及び連邦取引委員会(Federal Trade Commission。以下「FTC」といい、DOJと総称して「米国当局」といいます。)は、本年1月16日、「労働者に影響を与える事業活動に関する米国独占禁止法ガイドライン(Antitrust Guidelines for Business Activities Affecting Workers)」(以下「労働慣行ガイドライン」といいます。)※5を共同で公表しました。

 

※5 https://www.ftc.gov/system/files/ftc_gov/pdf/p251201antitrustguidelinesbusinessactivitiesaffectingworkers2025.pdf

 

労働慣行ガイドラインは2016年に公表された「人事担当者向けの米国独占禁止法ガイダンス(Antitrust Guidance for Human Resource Professionals)」(以下「前ガイダンス」といいます。)※6を置き換えるもので、米国独占禁止法※7違反に該当し得る行為として、企業間の労働慣行に関する合意等に加え、前ガイダンスには記載のない競業避止や秘密保持等の労使間の合意など、広範な行為を執行対象と示しています。

 

※6 https://www.justice.gov/atr/file/903511/dl

 

※7 シャーマン法、クレイトン法、連邦取引委員会法などの幾つかの法律の総称を指します。

 

前ガイダンスの公表以降、米国当局は、労働慣行における競争制限行為に対し、刑事訴追を含めて積極的に監視・執行する傾向を強めており、その対象は米国外企業にも広がっていることから、日本企業も今後の米国当局の執行状況を注意深く見守る必要があります。

 

本稿では、労働慣行ガイドラインの概要、今後の米国当局の運用見通し及び日本企業にとっての留意点をコメントします。

 

2. 労働慣行ガイドラインの概要

労働慣行ガイドラインは、米国当局が、米国独占禁止法に違反する可能性のある労働慣行をどのように特定し評価するかについての指針を示しています※8

 

※8 前提として、労働慣行ガイドラインは、米国独占禁止法には企業が提供する商品やサービスに対する競争を保護するのと同様に労働に対する競争も保護する趣旨もあることを強調しています。

 

具体的には、執行上の一般原則及び米国独占禁止法違反となり得る個別の労働慣行が記載されています。前ガイダンスからの大きな変更点として、個別の労働慣行について前ガイダンスが焦点を当てていなかった競業避止・秘密保持等の企業・労働者間の合意等が列挙されており、米国当局による労働慣行における執行対象の明確化を示す内容といえます。

 

【一般原則の概要】

→米国当局は労働者の競争を阻害する企業間の合意があるか否かに焦点を当てる。明示の合意に加え、黙示の合意も米国独占禁止法違反を構成する。

 

→合意の効果に関わらず合意自体が違法となる行為類型※9と、その他違法性の判断にあたり労働者・労働市場における競争促進・抑制効果の検討が必要な行為類型※10がある。

 

※9 いわゆる当然違法(per se illegal)。一般的には価格操作や入札談合等のハードコアカルテルが該当します。

 

※10 いわゆる合理の原則(rule of reason)。

 

→製品・サービス市場で競争関係にない企業間又は協力・協同関係の企業間であっても、労働市場における競争の実態が認められれば※11、米国独占禁止法の対象となる。

 

※11 一例として、航空機メーカーとその部品サプライヤーは、どちらも同じ市場からエンジニアを採用する場合があり、労働市場では競争関係にあります。

 

【米国独占禁止法違反となり得る労働慣行の概要】

→企業間の賃金・雇用条件の固定や人材引抜禁止(労働者の募集、勧誘、雇用の禁止)等の合意:これらの行為は、合意の効果に関わらず合意自体により米国独占禁止法に違反する可能性がある。

 

→フランチャイザーとフランチャイジー間の人材引抜禁止等の合意:上記同様に、合意の効果に関わらず合意自体により米国独占禁止法に違反する可能性がある。

 

→競合他社間における賃金・雇用条件に関する機密情報の共有:アルゴリズム又は第三者のツール・製品を通じて機密情報を提供・共有する場合を含む。上記の賃金・雇用条件の固定や人材引抜禁止等の合意には至らない情報交換は、競争制限効果を持つ場合に米国独占禁止法に違反する可能性がある。

 

→企業・労働者間の競業避止に係る合意※12:労働者の競合他社(潜在的な競合を含む。)への転職を禁止する内容のほか、労働者自身による起業の禁止及び退職時に違約金の支払を要求する内容を含む※13。競争制限効果を持つ場合に米国独占禁止法や連邦法・州法等※14に違反する可能性がある。

 

※12 FTCは、労働慣行ガイドラインに先行して、2024年4月、競業避止に係る合意を禁止するFTC規則を発表しましたが、同年8月に連邦地方裁判所が同規則差止命令(現在は控訴中)を発出したことから、現在同規則に基づく執行は行われていません。もっとも、労働慣行ガイドラインでは、FTCは(同規則ではなく)ケースバイケースでの執行措置を講じる意向を示しており、今後も米国当局の競業避止に係る合意に対する監視・執行の傾向は続くものと考えられます。

 

※13 米国当局は、競業避止に係る合意が、企業間の労働者の獲得競争、市場参入時の労働者の獲得、潜在的な競争相手の設立等を妨げ、競争制限効果が生じ得るとの見解を示しています。

 

※14 全国労働関係法(National Labor Relations Act)、パッカーズ・ストックヤード法(Packers and Stockyards Act)、カリフォルニア州法等。

 

→その他の制限的、排他的、略奪的な雇用条件:企業・労働者間の秘密保持、研修費返済、退職従業員による顧客等の勧誘禁止、退職金・違約金に係る合意等は、労働者が退職後に転職・起業することを妨げるため、競争制限効果を持つ場合に米国独占禁止法や連邦法・州法※15に違反する可能性がある。

 

※15 脚注10記載の連邦法のほか、コロラド州法等。

 

→(雇用関係にある労働者に加えて)独立業務請負人※16も米国独占禁止法上の保護の対象とする。

 

※16 個別業務に従事する、企業の直接の監督下にはない業務委託者を指します。労働慣行ガイドラインでは、一例として、消費者と独立業務請負人をマッチングさせるプラットフォーム運営企業間で、プラットフォームを通じてサービスを提供する独立業務請負人の報酬を固定する契約を結んだ場合、米国独占禁止法違反に該当し得るとされています。

 

→企業による労働者が得る可能性のある収入に係る虚偽等の申告:これらの行為は労働者獲得に係る公正な競争を害するため、連邦法※17に違反する可能性がある。

 

※17 連邦取引委員会法5(a)等。

 

3. 第2次トランプ政権下での運用見通し

労働慣行ガイドラインは、バイデン政権終了直前期に公表されたものであり、その審議過程において2名の共和党FTC委員の反対にも関わらず3名の民主党FTC委員の賛成により成立したという経緯がありました※18

 

※18 https://www.ftc.gov/system/files/ftc_gov/pdf/at-guidelines-for-business-activities-affecting-workers-ferguson-holyoakdissent.pdf

 

その後、第2次トランプ政権下において、労働慣行ガイドラインに反対票を投じたアンドリュー・ファーガソン(Andrew N. Ferguson)氏がFTC委員長に就任したことから、一時は労働慣行ガイドラインが撤回される可能性も示唆されました。

 

しかしながら、ファーガソン氏自身は、労働慣行ガイドラインと共通する行為類型を対象に、労働慣行における競争制限行為に対し、積極的に監視・執行する姿勢を示しており、本年2月26日に発表したファーガソン氏のメモランダム※19にもその意向が示されています。

 

※19 https://www.ftc.gov/system/files/ftc_gov/pdf/memorandum-chairman-ferguson-re-labor-task-force-2025-02-26.pdf

 

同メモランダムでは、第2次トランプ政権下のFTCが米国内の労働者に損害を与える不公平な労働慣行の根絶と訴追を優先すること、FTCの競争局・消費者保護局・経済局・政策企画局による合同労働タスクフォースを結成し、欺瞞的、不公正又は競争制限的な労働慣行の調査・執行活動を優先することが指示されました。さらに、合同労働タスクフォースが調査・執行する行為類型として、労働慣行ガイドライン記載の賃金固定・人材引抜禁止等の協定、競業避止に係る合意等を含む複数の労働慣行が特定されました。

 

以上のとおり、ファーガソン氏のメモランダムでは、米国当局として、今後、労働慣行ガイドライン記載の内容を含む労働慣行に対する積極的な監視・執行にリソースを割くことが明示されていることから、現時点では同ガイドラインの撤回等、急激な方針転換が行われる可能性は低いように思われます。また、今後、合同労働タスクフォースによる調査を通じて更なる執行対象の明確化や優先順位の設定が図られることが想定されます。

 

4. 日本企業への示唆

米国当局による労働慣行における執行対象の明確化は、日本企業に対する執行可能性及び労働者のグローバル化といった観点から、日本企業にとっても見過ごせないリスクとなると考えられます。まず、米国独占禁止法は、米国外企業の行為であっても、米国内の取引に直接的、実質的及び合理的に予見可能な影響を有し、当該影響が米国独占禁止法上の請求権を発生させる場合には適用されます※20

 

※20 外国取引反トラスト改善法(Foreign Trade Antitrust Improvements Act of 1982)参照。

 

実際、米国外企業が締結した労働慣行に係る合意が、米国内の競争に直接影響を及ぼしたとして、米国当局により追及されたケースも存在することから※21、日本企業としても「米国内の規制に過ぎない」と考えるのは早計であり、むしろ、自社が雇用する労働者との労働慣行が米国市場にどのような影響を与えるかを検討する必要があるといえます。

 

※21 米国外企業に対する執行事例としてドイツ企業による米国外で行われた人材引抜禁止に係る合意に対する執行事例であるUnited States v. Knorr-Bremse AG and Westinghouse Air Brake Technologies Corp., No. 1:18-cv-00747(D.D.C. July 11, 2018)参照。また、 ルクセンブルク企業内の競業避止に係る合意に対する執行事例である Ardagh Group S.A., Ardagh Glass Inc. & Ardagh Glass Packaging Inc., FTC Decision and Order, Docket No. C-4785(Feb. 21, 2023)参照。

 

さらに、近年の米国居住者を雇用する若しくは独立業務請負人として起用すること、又はグローバルに移転可能な人材の増加という傾向は、企業のビジネスにおける米国との関わりを一層密接なものにしており、結果として、米国独占禁止法の適用リスクを高める要因となっています。

 

特に、実務上、競業避止や秘密保持契約(NDA)といった制約条項を導入している事例は見受けられることから、これらが米国市場における競争を不当に制限する効果を持つと判断されれば、米国当局から摘発されるリスクが生じ得ます。さらに、日本・米国間における親子会社間や協同関係にある企業同士で「お互いの社員は採用しない」「給与・待遇に関する情報交換を行う」といった協定が存在する場合も同様のリスクが生じ得ます。

 

労働慣行ガイドラインが公表されたばかりである現状においては、今後、米国当局が実際にどのような事案をどの程度厳格に追及するのか、また執行状況がどのように推移するのかを、継続的に注視する必要があります。少なくとも、日本法上は有効とされている競業避止や秘密保持に係る合意等の労働慣行であっても、米国独占禁止法上ではリスクが存在する可能性があることに留意する必要があります。

 

さらに、米国に関係する労働者や独立業務請負人を多く雇用している・契約関係にある日本企業、またグローバルな人事方針を持つ日本企業は、米国当局による捜査や訴追のターゲットとなる可能性があることを念頭に、今後、契約内容・人事方針の見直し等、適切な対策を講じることも有用であると考えられます。

Ⅲ 最近の危機管理・コンプライアンスに係るトピックについて

執筆者:木目田 裕、宮本 聡、西田 朝輝、澤井 雅登、寺西 美由輝

 

危機管理又はコンプライアンスの観点から、重要と思われるトピックを以下のとおり取りまとめましたので、ご参照ください。なお、個別の案件につきましては、当事務所が関与しているものもありますため、一切掲載を控えさせていただいております。

 

【2025年2月27日】

警察庁、「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令案」を公表

https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&Mode=0&id=120250002

 

2025年2月27日、警察庁は、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令案を公表しました。

 

今回の改正は、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和6年6月21日閣議決定)、「国民を詐欺から守るための総合対策」(令和6年6月18日犯罪対策閣僚会議決定)等を踏まえ、以下のとおり、犯罪による収益の移転防止に関する法律に基づく非対面での本人特定事項の確認方法を見直すこと等を内容としています。

 

→自然人の本人特定事項の確認方法について、本人確認書類の画像情報や写しの送付等を受ける方法を原則廃止し、マイナンバーカードの公的個人認証に原則一本化する。

 

→法人の本人特定事項の確認方法としての、本人確認書類の送付を受ける方法について、本人確認書類の写しの利用を不可とし、原本の利用のみ認める。

 

【2025年2月28日】

「AI関連技術の研究開発・活用推進法案」を閣議決定

https://www.cao.go.jp/houan/pdf/217/217anbun_2.pdf

 

2025年2月28日、政府は、「AI関連技術の研究開発・活用推進法案」を閣議決定しました。

 

本法案は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する国、地方公共団体等の責務、政府が人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する基本的な計画(AI基本計画)を定めること、国は、不正な目的又は不適切な方法による人工知能関連技術の研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた場合には、調査結果に応じて指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずること等を内容とするものです。

 

他方で、本法案に罰則を設けることは見送られました。

 

【2025年3月4日】

東京都、「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル」を公表

https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuharamanual/index.html

 

2025年3月4日、東京都は、「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル」(業界マニュアル作成のための手引)を公表しました。

 

本共通マニュアルは、カスタマー・ハラスメントに関する業界マニュアルに盛り込むことが望ましい共通事項をまとめるとともに、その内容を踏まえたマニュアルのひな形を紹介しております。

 

【2025年3月5日】

サステナビリティ基準委員会、「サステナビリティ開示基準」を公表

https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2025-0305.html

 

サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、2025年3月5日、サステナビリティ開示基準(以下「本基準」といいます。)を公表しました。サステナビリティ基準委員会は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を受け、2022年7月に、我が国におけるサステナビリティ開示基準を開発すること等を目的として設立された委員会です。

 

本基準は、ISSBが定めた開示基準であるIFRS S1号(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項)及びIFRS S2号(気候関連開示)に対応するものです。本基準においては、IFRS S1号のうち、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して開示すべき事項(コア・コンテンツ)を定めた部分を「一般基準」(サステナビリティ開示テーマ別基準第1号)、コア・コンテンツ以外のサステナビリティ関連財務開示を作成する際の基本となる事項を定めた部分を「適用基準」(サステナビリティ開示ユニバーサル基準)とし、IFRS S2号に対応する部分を「気候基準」(サステナビリティ開示テーマ別基準第2号)として構成しています。

 

サステナビリティ基準委員会は、近日中に、今回公表した本基準とISSBの基準との差異の一覧及び項番対照表を公表する予定とのことです。

 

【2025年3月6日】

経済産業省、「経済安全保障上の課題への対応(民間ベストプラクティス集)-第2.0版-」を公表

https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/best_practice2.0.pdf

 

経済産業省は、2025年3月6日、「経済安全保障上の課題への対応(民間ベストプラクティス集)-第2.0版-」を公表しました。

 

本ベストプラクティス集は、経済安全保障上の課題に対応するための組織体制の構築、技術流出の対策、サプライチェーンリスクへの対策といったテーマごとに、例えば、以下の企業の取組みを紹介しております。

 

①経済安全保障上の課題に対応するための組織体制の構築

→経営層の経済安全保障リスクリテラシー強化

→経済安全保障リスクの検討基準の明確化

→子会社や海外拠点を含むグループ全体での情報共有

 

②技術流出の対策

→従業員への外部からのメールの分析・注意喚起

→従業員による不審なデータアクセスの検知

→社外に技術情報を送付するメールの検知

→退職役員による現役従業員へのリクルーティング禁止

 

③サプライチェーンリスクへの対策

→取引先の抱えるリスクの調査

→経済安全保障に係るシナリオプランニングの実施

→取引先のセキュリティ脆弱性を踏まえた監査

→発注する業務のリスクに応じた取引先の選定

 

【2025年3月11日】

下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案、閣議決定

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/mar/250311_kakugikettei.html

 

2025年3月11日、下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案が閣議決定されました。本法律案は、下請法に関し、主に以下の改正を行うものです。

 

(1)協議を適切に行わない代金額の決定の禁止

→下請法の対象取引において、代金に関する協議に応じないことや、協議において必要な説明又は情報の提供をしないことによる、一方的な代金の額の決定を禁止する。

 

(2)手形払等の禁止

→下請法の対象取引において、手形払を禁止する。また、その他の支払手段(電子記録債権やファクタリング等)についても、支払期日までに代金相当額を得ることが困難なものは禁止する。

 

(3) 運送委託の対象取引への追加

→下請法の対象取引に、製造、販売等の目的物の引渡しに必要な運送の委託を追加する。

 

(4) 従業員基準の追加

→下請法の適用基準について、従業員数300人(役務提供委託等は100人)の区分を新設し、規制及び保護の対象を拡充する。

 

【2025年3月14日】

金融庁、令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等を公表

https://www.fsa.go.jp/news/r6/shouken/20250314/20250314.html

 

2025年3月14日、金融庁は、2024年5月15日に成立した「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」※22に係る政令・内閣府令案等を公表しました。主な政令・内閣府令案等の内容は以下のとおりです。

 

※22 2024年5月15日に成立した「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」については、本ニューズレター2024年5月31日号(「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案が成立」)をご参照ください。

 

(1)公開買付制度の見直し

→公開買付制度の対象となる取引範囲の見直し(30%ルール23の対象外となる、買付け等を行う株券等の数が著しく少ない場合の基準を1年間で1%未満とする等)

 

※23 公開買付けが強制される株券等所有割合の閾値を30%とするルール。

 

→形式的特別関係者24の範囲の見直し(買付者の親族並びに買付者が特別資本関係を有する法人等及び買付者に対して特別資本関係を有する法人等の役員を除外)

 

※24 株券等の買付け等を行う者と、株式の所有関係、親族関係その他の政令で定める特別の関係にある者を指します(金商法27条の2第7項)。株券等を買い付けた後の株券等所有割合が一定の基準を超える場合、公開買付けが強制されるところ(金商法27条の2第1項2号)、特別関係者がいる場合には、特別関係者の株券等の保有分を合算して株券等所有割合が計算されます(金商法27条の2第8項)。

 

→公開買付手続の柔軟化(公開買付期間中に対象者が配当を行う場合等に公開買付価格の引下げを可能とする、公開買付けの撤回事由の拡充等)

→公開買付届出書等の記載事項の明確化等(公開買付届出書等の様式の見直し等)

 

(2) 大量保有報告制度の見直し関連

→企業と投資家の対話の促進に向けた規定の整備等(「共同保有者」※25に該当しないこととなるための要件の1つである「個別の権利の行使ごとの合意」の具体的内容を定める等)

 

※25 株券等の保有者が、当該株券等の発行者が発行する株券等の他の保有者と共同して当該株券等を取得し、若しくは譲渡し、又は当該発行者の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合における当該他の保有者を指します(金商法27条の23第5項)。株券等保有割合が5%を超えた場合、その日から5営業日以内に大量保有報告書の提出が必要となるところ(金商法27条の23第1項)、共同保有者がいる場合には、共同保有者の株券等の保有分を合算して株券等保有割合が計算されます(金商法27条の23第4項)。

 

→現金決済型エクイティ・デリバティブ取引に関する規定の整備

→みなし共同保有者26の範囲の見直し(役員兼任関係や資金提供関係など、一定の外形的事実がある場合をみなし共同保有者に追加する。)

 

※26 株券等の保有者が、当該株券等の発行者が発行する株券等の他の保有者と、株式の所有関係、親族関係その他の政令で定める特別の関係にある場合、共同保有者に該当するとみなされます(金商法27条の23第6項)。

 

→大量保有報告書の記載事項の明確化等(大量保有報告書の様式の見直し等)

 

 

 

 

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○執筆者プロフィールページ
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