本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『アジアニューズレター(2021/3/22号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

本ニューズレターは、2021年3月22日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

 

第1回(権原の基本的性質:https://gentosha-go.com/articles/-/32010)に引き続き、第2回は、バングラデシュの不動産に係る権限及び権利の登録制度、並びに譲渡の手続について概説します。後者については、譲渡前、譲渡時、譲渡後の3段階に手続を分類し、今回は譲渡前の手続について、次回、譲渡時及び譲渡後の手続を取り上げます。

1. 権原及び権利の登録制度

(1)管轄行政機関

 

バングラデシュの土地管理では、土地省及び法務・司法・議会事務省が重要な機能を担っています。

 

まず、土地省は、測量や土地開発税の徴収、仲裁手続等の土地に関する事項を取り扱っており、省内には以下の部局等が設置されています。

 

a)土地記録調査局:地籍調査を実施し、モウザ(mouza)と呼ばれる最小の徴税単位ごとに各土地区画を記載した地租地図(mouza map)、及び調査に基づき土地の占有状況を記録したコティアン(khatian)と呼ばれる権利台帳を作成しています。権利台帳は複数部作成され、土地記録調査局及び各地域の行政組織がそれぞれ管理しています。場所により実施された調査や権利台帳は異なりますが、一般的には、地籍調査(Cadastral Survey)、国家収用調査(State Acquisition Survey)、修正調査(Revisional Survey)、バングラデシュ調査(Bangladesh Survey)の4種類の調査があります。各調査による権利台帳は、それぞれC.S.コティアン、S.A.コティアン、R.S.コティアン、B.S.コティアンと呼ばれます。

 

b)土地局担当補佐官:権利台帳の更新に関する管理を行います。次回土地調査が実施されるまでの間に権利台帳の記載事項に変更が生じた場合、変更手続を行います。

 

次に、法務・司法・議会事務省は、土地の移転及び譲渡に関する記録を扱います。同省に設置されている土地登録局が、売却、相続又はその他の事由により生じた土地の移転及び譲渡に関する記録を行います。これらの移転及び譲渡を土地省に報告し、不動産移転手数料及び税を徴収します。

 

(2)登録制度の概要

 

不動産の権原の登録には、大きく次の2ステップを踏む必要があります。

 

a)譲渡証書(売渡証書又は賃借証書等)の締結及び登録

 

b)土地局担当補佐官への申請による、新規作成される、又は更新による、コティアンへの譲受人の氏名の記録

 

譲渡証書を登録することにより不動産に対する権原が創出されます。また、権利台帳への譲受人の氏名の記録又はその変更申請を行うことにより、その事実を覆す証拠がない限り、その者が当該不動産を占有していると推定されます。土地開発税の支払いもまた、当該不動産の占有の証拠となります(占有の重要性については後記2④をご参照)。

 

なお、相続による権原の移転の場合には、譲渡証書を作成する必要はなく、当該移転について登録する必要はありません。この場合、前権原保持者である被相続人の名において締結された譲渡証書が存在する限り、相続により権原が移転されます。相続人は、地方自治体(中核都市〈city corporation〉や地方都市〈pourashabha〉の市役所、農村部のユニオン評議会〈union parishad〉等)から相続証明書(warishan certificate)を取得する必要があります。

 

(※バングラデシュ・ダッカの道路とビル群/PIXTA)
(※バングラデシュ・ダッカの道路とビル群/PIXTA)

2. 譲渡の手続

不動産の権原譲渡の流れを、譲渡前、譲渡時、譲渡後の3段階に分類して概説します。

 

(1)譲渡前

 

①適切な土地の決定

 

第1ステップとして、使用目的に適切な不動産を決定する必要があります。正規に不動産サービスを提供している業者はごくわずかであり、また、そのサービスの対象も主に建物内の居住及び商業エリアに限定されています。どの地域にも、インフォーマルな不動産サービスプロバイダーも存在しますが、対象となる土地について正確な情報が提供されないリスクが高まりますので、注意が必要です。

 

新聞広告も土地を探す際の情報源であり、主要な各日刊紙には不動産の専用ページが設けられています。

 

②当事者間における交渉及び合意

 

土地の特定後、買主及び売主は、通常、譲渡価格及び譲渡方法に関する交渉を行います。一般的に、バングラデシュの売主は、譲渡に関する主要条件を決定せずに、不動産に関する書類を開示することに難色を示すことが少なくありません。主要条件について合意がなされない場合にはデューディリジェンスの実施が困難になるため、両当事者間の合意事項の記録として、覚書又は意向表明書が締結されることもあります。

 

③デューディリジェンス(権原調査)

 

両当事者が合意に至り、合意事項が書面化された後、買主は、売主に対し、当該不動産の所有及び占有に関する全ての書類の開示請求を行います。実務上は、売買価格の5%等、売買価格の一部について買主から受け取らない限り、書類を開示したがらない売主も存在します。

 

デューディリジェンス時に通常確認される書類は、登録証書(売主又はその前権原保持者が当該不動産の権原を取得した際の証書を含め、当該不動産に関する全ての譲渡証書)、権利台帳(C.S.コティアン、S.A.コティアン、R.S.コティアン、B.S.コティアン。変更手続がなされている場合には変更後の最新の権利台帳)、地租地図、土地開発税の支払証明書、及び管轄登録事務所が発行した不動産に対する負担不存在証明書等が挙げられます。

 

当該不動産上に工作物が存在する場合、当該工作物が適式に許可又は認可を受けて建設され、かつ、予定している使用目的に当該工作物を使用することができるかを確認するため、上記の書類に加え、関連当局が発行した承認済みの図面及び計画書、異議不存在証明書、認可又は許可書等を調査する必要があります。

 

実務上は虚偽又は偽造文書が提出されることも多いため、管轄当局に対し当該書類の真偽に関して確認をすることが推奨されます。また、書類上に記載されている不動産の面積と実際の面積が一致していない場合もあるため、実際に当該不動産の確認及び測量を行うことも推奨されます。以上に加え、当該不動産に関する係争中の紛争の有無の確認として、管轄裁判所が保有する記録を調査することも推奨されます。ただし、裁判所の記録は手作業、かつ、ハードコピーで保存されているため、調査は容易ではありません。

 

④売買契約の締結及び登録

 

デューディリジェンスにおいて満足のいく結果が得られた場合、買主は、売主と売買契約(Bainanama)を締結し、続いて、適用法令に基づき、同契約書を登録するのが通常です。売買契約自体は不動産の権原を譲渡させるものではありませんが、買主は、売買契約を締結することにより、所定の様式での売渡証書の締結及び登録による不動産の譲渡を含め、売主が売買契約上の義務の履行を拒否した場合、当該契約の特定履行を請求することができます。

 

売買契約の言語について法令上は特に定めはなく、記載言語は英語又はベンガル語のいずれも可能です。ただし、法令上、登録官は、その記載言語が理解できないことを理由に譲渡文書の登録を拒絶することができるとされています。また、英語が分からないとして、契約言語をベンガル語にするよう主張する売主も存在します。

 

また、買主は、売買契約の締結及び登録時に、売買価格の5%~30%程度を頭金として売主に支払う必要があります。一般的には、売買価格の少なくとも80%が支払われない限り、売主が占有を引き渡すことはありません。

 

ちなみに、占有は、将来紛争が生じた場合に、買主の利益を保護する上で重要な役割を果たします。例えば、法令上、売渡証書が締結又は登録されていない場合であっても、不動産契約を締結し対象不動産の一部を占有する等の要件を満たす場合、譲渡人又は譲渡人から権原を与えられた者は、契約に明記されている自己の権利を除き、譲受人及び譲受人から権原を与えられた者に対し、当該不動産に関する権利を行使することはできないとされています。

 

⑤購入の意思通知

 

売買契約には、不動産の購入の意思通知を公告する権利及び当該通知の写しを不動産に貼付又は設置する権利を、買主に付与する条項を含めることが推奨されます。このような通知は、優先的な買取権等の、(デューディリジェンス中に発見されなかった)不動産に対して何らかの権利を有する可能性のある者に対する、通知義務の履行になります。また、当該不動産に関する紛争の特定を容易にすることにもなります。

 

このような通知により、買主のリスク及び損失は、支払い済みの頭金のみに限定することができます。当該通知に記載される異議申立の期間は通常30日間ですが、法令上、売主の共同所有者に認められた優先的な買取権の行使の申立期限が4ヵ月となる場合もあるため、当該通知に記載する異議申立期間は、4ヵ月以上とすることが推奨されます。

 

⑥売買に対する承諾

 

なお、不動産の賃借権を売買するの場合、譲渡に対する賃貸人の承諾が通常必要となります。一般的には、売主が承諾の取得義務を負うことが多いですが、いずれの当事者が承諾の取得の責任を負い、かかる費用を負担するのか、また、承諾の取得期限についても、売買契約に明記することが推奨されます。実務上、売主は、売買価格の50%(又はそれ以上)が買主から先に支払われない限り、当該承諾を取得しようとしない傾向にあります。

 

(次号に続く)

 

 

今泉 勇
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士
ヤンゴン事務所副代表

 

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○執筆者プロフィールページ 今泉 勇

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