※写真はイメージです/PIXTA

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『アジアニューズレター(2021/6/9号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

本ニューズレターは、2021年6月9日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

 

第1回(権原の基本的性質:https://gentosha-go.com/articles/-/32010)、第2回(権原及び権利の登録制度、譲渡の手続:https://gentosha-go.com/articles/-/32828)、第3回(譲渡の手続:https://gentosha-go.com/articles/-/33591)第4回(譲受人の法定権利、外国人の権利:https://gentosha-go.com/articles/-/34276)に続き、第5回は、バングラデシュ不動産の取引時に発見される法的論点について取り上げます。

1.法律上の譲渡制限

デューディリジェンス(権原調査)時に対象不動産に問題が発見され、当該対象不動産を購入するべきではないとの判断がなされることがあります。かかる問題の一例として、不動産に関する係争中の紛争が挙げられます。

 

1882年財産移転法(以下「財産移転法」といいます。)は、バングラデシュの裁判所に係属し、不動産に係る直接的及び具体的な権利に関する、通謀によるものではない訴訟又は法的手続の係属期間中は、当該訴訟又は法的手続の当事者は、その他当事者の権利が当該訴訟又は法的手続における判決又は命令に基づくものとなるよう、裁判所の権能及び裁判所が課す条件に基づく場合を除き、当該不動産を譲渡又は処分することはできないと規定しています。

2.より実務的な論点

(1)政府機関による請求

 

対象不動産に対して、政府機関が何らかの権利を有している又は請求がなされる場合があります。例えば、河川に近接した不動産は、バングラデシュ内陸水運庁により、将来的に立退きが求められる可能性があります※1

 

※1 https://www.dhakatribune.com/bangladesh/dhaka/2019/03/05/biwta-to-begin-second-phase-of-eviction-drives-today

 

(2)権利台帳の誤記

 

デューディリジェンス時によく発見される他の問題は、権利台帳の所有者又は地番に関する記載の誤りです。世界銀行が発表したDoingBusiness2020では、バングラデシュにおける不動産の登録について、以下の記載がなされています※2

 

※2 37頁。報告書は以下のリンクをご参照:https://www.doingbusiness.org/content/dam/doingBusiness/country/b/bangladesh/BGD.pdf

 

「権利台帳の変更手続は、所有権を変更するための手続であり、手続後は権利台帳の変更証明書を取得することができる。変更証明書は、不動産の譲渡を登録する上で必要な書類の1つである。しかし、権利台帳には一般的に、欠落した情報があるか、又は、売り手側の法的所有者が間違っていることがよく見受けられる。そのため、利害関係者は、当該不動産の所有権の履歴を土地局担当補佐官に確認し、権利台帳に記載されている情報が土地の実情を正しく反映しているかどうかを確認することが一般的である。50%以上の確率で権利台帳の記録は間違っているとされているため、当局に確認をすることが一般的となっている。また、土地局担当補佐官側によるミスにより、氏名やその他土地に関する事項が誤って記録されている場合もある。」

 

上記のような記録の誤記は、1950年国家収用及び賃借法に基づき、記録の訂正請求手続を行うことにより是正することが可能ですが、手続中に紛争が生じる可能性もあります。バングラデシュにおいて、権原及び所有権に関する手続を完了させるためには、再請求等を含め、多大な時間を要します(場合によっては、数十年かかることもあります。)。

 

(3)共同所有の場合

 

共同所有者の一人が、他の共同所有者の同意又は権限を得ずに土地を譲渡する事例も多く見受けられ、例えば、共同所有者が相続により不動産の所有権を取得した場合に問題が顕在化することがあります。

 

バングラデシュでは、つい10年程前まで、個人を識別するための一元化された制度が存在しておらず、他の共同所有者の存在を隠すことは比較的容易に行うことができました。そのため、買主は、売主が相続によって不動産の所有権を取得している場合には、細心の注意を払う必要があります。たとえ売主が地方の関係当局が発行した相続証明書(warishan certificate)を提供した場合であっても、買主は独立した情報源を通じて、被相続人の相続人の数を確認する必要があります※3

 

※3 相続による権原の移転については、第2回ニューズレター「1.権原及び権利の登録制度」をご参照ください。https://www.nishimura.com/ja/newsletters/asia_210322.html

 

(4)譲渡証書と権利台帳の齟齬

 

この他、実際の土地の面積と書類における土地の面積の不一致もしばしば見受けられます。この場合、実務上は、より少ない数値を譲渡証書に記載することで対応する場合もあります。

 

財産移転法に基づき、権利台帳に記載された面積が売却の対象とされるため、例えば、変更手続後の権利台帳において不動産の面積が1エーカーと記載され、実際の面積は1.05エーカーである場合には、権利台帳に記載された1エーカーが売却時の面積となります。一方で、この数値が逆(実際の面積が権利台帳の数値よりも小さい)の場合、実際には存在しない土地の面積に対し対価を支払わなければならなくなるため、将来的に譲渡をする場合には、売渡証書には実際の面積を記載することが推奨されます。

 

 

今泉 勇

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

ヤンゴン事務所副代表

 

中島 朋子

西村あさひ法律事務所 弁護士

 

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   今泉 勇
   中島 朋子

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