「老後に心配はない」退職後、スタートした“ご褒美の時間”
都内に住む敏夫さん(仮名・67歳)と妻の京子さん(仮名・65歳)は、いわゆる堅実な共働き夫婦でした。敏夫さんは大手企業で管理職を務め、定年まで勤務。退職金とこれまでの貯蓄を合わせ、老後資金は約6,000万円を確保していました。
「数字だけ見れば、十分だと思っていました。むしろ“少し余裕がある”くらいの感覚でした」
住宅ローンはすでに完済。子どもも独立しており、教育費の負担もありません。退職後は夫婦で海外旅行に出かけるなど、これまで我慢してきた楽しみを取り戻す生活を始めました。
「仕事中心の生活だったので、“これからは好きなことをしよう”と話していたんです」
ヨーロッパや東南アジアへの旅行を数回重ね、生活費もややゆとりのある水準に引き上げました。それでも、当時は大きな不安は感じていなかったといいます。
変化が表れたのは、退職から1年ほど経ったころでした。
きっかけは、敏夫さんの体調不良でした。定期検査で異常が見つかり、精密検査と通院が続くことに。幸い大事には至りませんでしたが、医療費の自己負担は予想以上に膨らみました。
「1回1回は大きくないんですが、回数が増えると無視できない額になります」
さらに、自宅の修繕費も重なります。築30年を超えた戸建て住宅は、外壁や水回りの補修が必要な時期に差しかかっていました。
「最初は小さな修理のつもりだったんですが、見積もりを取ると“この機会にまとめてやったほうがいい”と言われて」
結果として、数百万円単位の出費が続きました。
そしてもう一つ、想定していなかった支出がありました。地方に住む義母の介護費用です。施設利用に伴う自己負担分を、京子さんが中心となって一部支援することになりました。
「自分たちの老後だけ考えていればいい状況ではなかったんです」
こうした支出が重なったことで、貯蓄の減り方は想定よりも早くなりました。
「気づいたときには、“このペースで大丈夫なのか”と不安になるレベルでした」
