花束とともに帰宅した退職日…静かに突きつけられた“これから”
浩一さん(仮名・60歳)は、長年勤めた会社の最終出勤日、職場でもらった花束を手に帰宅しました。玄関で迎えた妻の美智子さん(仮名・58歳)は、「お疲れさま」と笑顔で声をかけたといいます。
浩一さんは会社員として働き続け、家計の中心を担ってきました。一方で、美智子さんは子育てと家事を長年引き受けてきました。子どもたちはすでに独立し、夫婦二人の生活に戻っていましたが、家のことはほとんど美智子さんが担う状態が続いていました。
その夜、夕食のあとに美智子さんが静かに言いました。
「これからは家のこともお願いね」
浩一さんは、最初は冗談のように受け止めたそうです。
「もちろん手伝うよ、と軽く答えました。でも妻の顔が真剣で、これは“手伝う”という話ではないんだと後から分かりました」
美智子さんにとって、その言葉は長年抱えてきた本音でした。
「夫が仕事で大変だったことは分かっています。でも、私もずっと家の中で動き続けてきました。退職したなら、家のことも二人でやるのが自然だと思ったんです」
ところが、退職後の浩一さんの生活は、すぐには変わりませんでした。朝は新聞を読み、昼はテレビを見て、夕方になると「今日のご飯は?」と聞く。会社に行かなくなっただけで、家の中での役割はほとんど以前のままだったのです。
「夫は悪気なく、“家では休むもの”と思っていたんだと思います。でも私は、夫が家にいるぶん、むしろ仕事が増えたように感じました」
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の可処分所得は月22万1,544円、消費支出は月26万4,148円です。退職後は収入面の見直しに目が向きがちですが、日々の暮らしをどう分担するかも、夫婦関係に大きく影響します。
