(※写真はイメージです/PIXTA)

定年を機に、都市部の住まいを離れて地方へ移住するケースは少なくありません。広い住環境や自然に囲まれた暮らしは魅力的である一方、生活インフラや医療、交通の利便性が大きく変わることもあります。国土交通省『令和5年度 高齢社会に関する意識調査(高齢期の住み替えについて)』では、住み替えを検討する理由として「住まいの老朽化」や「健康・体力面の不安」に加え、「交通や買い物の利便性」も挙げられています。住み替えは単に住居費の問題ではなく、生活全体の環境を変える選択でもあります。

「ゆっくり暮らそう」地方の庭付き一軒家へ移住

都内で長年働いてきた誠さん(仮名・64歳)と妻の真由美さん(仮名・62歳)は、定年退職を機に地方への移住を決めました。都内のマンションを売却し、地方にある中古の一戸建てを購入。庭付きで、駐車スペースも広く、「これからのんびり暮らすには最適だ」と感じたといいます。

 

「ずっとマンション暮らしだったので、土のある生活に憧れがあったんです。家庭菜園もやってみたくて」

 

購入費用は売却益でほぼ賄い、住宅ローンは組んでいません。年金受給開始前の生活費は、退職金と貯蓄で十分にカバーできる見込みでした。

 

「これからは時間もあるし、好きなことをして過ごそうと話していました」

 

移住当初、夫婦は「少し遠くなるけど、そのぶん落ち着いた暮らしができる」と前向きに考えていました。

 

最初の1ヵ月は、まさに理想通りの生活だったといいます。庭の手入れをしたり、近所を散歩したり、地元の野菜を買って料理を楽しんだりと、ゆったりとした時間が流れていました。

 

「これでよかったと思っていました。本当に」

 

長男の直人さん(仮名・35歳)が実家を訪ねたのは、移住から3ヵ月後のことでした。久しぶりに顔を見に行こうと連絡したところ、母から返ってきたのは意外な言葉でした。

 

「わざわざ来なくてもよかったのに」

 

その言い方に、少し違和感を覚えたといいます。

 

「遠慮というより、“来なくていい”と本気で思っているような感じでした」

 

実際に訪ねてみると、家の様子は想像と違っていました。庭は手入れが追いつかず、雑草が伸び放題。家の中も、以前のように整っているとは言いがたい状態でした。

 

「最初に来たときとは明らかに違っていました。生活に余裕がないというか、回っていない感じがしました」

 

話を聞くと、想定していなかった負担がいくつも出てきていたことが分かりました。

 

まず、買い物です。最寄りのスーパーまでは車で15分。徒歩では現実的ではなく、車が前提の生活になっていました。

 

「父が運転していたんですが、最近は疲れやすくなって、あまり出かけなくなっていたみたいです」

 

また、通院の問題もありました。都内にいたころは徒歩圏内に複数の医療機関がありましたが、現在は通院に時間がかかります。

 

「“たいしたことないから”と、受診を先延ばしにしている様子もありました」

 

さらに、庭付きの家ならではの負担もありました。草むしりや掃除、修繕など、想像以上に手間がかかるといいます。

 

「最初は楽しかったけど、だんだんしんどくなってきた、と母は言っていました」

 

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