「大丈夫そう」に見えても…独居高齢者の暮らしに潜む“綻び”
「心配いらないから。ちゃんとやってるよ」
そう言って笑っていた和子さん(仮名・81歳)。夫に先立たれてから十年以上、地方の持ち家で一人暮らしを続けています。年金は月14万円ほど。ぜいたくはできないが、家賃がかからないぶん、何とかやっていける――長男の光一さん(仮名・55歳)も、そう思っていました。
「電話では元気そうだったんです。弱音を吐く人じゃないし、“大丈夫”と言うなら大丈夫なんだろうと」
光一さんが実家を訪ねたのは、約一年ぶりでした。きっかけは、近所の人からの何気ない一言でした。
「最近、お母さんあまり見かけないけど元気?」
その言葉が少し引っかかり、急きょ帰省を決めたといいます。そして、玄関を開けた瞬間に違和感を覚えました。
靴は乱雑に置かれ、廊下にはうっすらと埃がたまっていました。以前の母の家ならあり得ない状態でした。居間のテーブルには未開封の郵便物が積み上がり、流しには洗い物が残ったまま。冷蔵庫の中は驚くほど空で、賞味期限の切れた豆腐と漬物、小さなペットボトルの水が数本あるだけでした。
それでも和子さん本人は、穏やかな表情で「急にどうしたの」と笑っていたそうです。ところが、薬の袋を確認すると飲み忘れがあり、後払いの請求書も机の隅に未開封のまま残っていました。電気や水道は止まっていない。けれど、“何とか回っているように見えていた暮らし”が、ぎりぎりのところで保たれていただけだったことが分かってきました。
その夜、光一さんは母に通帳を見せてもらいました。そこで目にした数字に、思わず崩れ落ちそうになったといいます。残高は、本人が想像していたよりはるかに少なかったのです。
「正直、もっと残っていると思っていました。年金14万円で、家賃もない。大きなぜいたくもしていないはずなのに、どうしてここまで減っているんだろうと」
