パンデミックで人の生き方はどう変化するか
■それでも変わらないものとは
他にもパンデミックを受けて、新聞の見出しや解説、ライブストリーミング番組などでさんざん取り上げられたテーマがある。それは感染拡大の最中に見られた消費者行動のうち、ポストコロナの時代も残りそうな行動はどれかという問題だ。何が習慣になり、定着するのか。
聞いたことがあるかもしれないが、一般に習慣を身につけるのも、習慣を捨て去るのも、21日かかると言われる。実はそれは正しくない。正確ではないのだ。「21日」説を最初に広めたのは、アメリカの形成外科医のマクスウェル・マルツ博士である。マルツ博士は、患者が自分の手術結果に慣れるまでの期間が平均21日だと気づいた。
たとえば、隆鼻術を受けた患者が自分の新しい顔に慣れるまでに21日かかるのだ。手や足を切断した患者は、切除部分がまだあるような感覚が抜けるまでに約3週間かかった。マルツ博士は、正式な臨床上の検査から導き出したわけではないものの、こうした専門家としてのそれまでの観察結果や自分自身の個人的な経験も踏まえ、1960年に『Psycho Cybernetics』(邦訳『自分を動かす――あなたを成功型人間に変える』)という著書をまとめるに至った。その著書でマルツ博士は次のように指摘する。
「私が観察した現象にとどまらず、他にも一般的によく見られる現象を考慮すると、それまでにあったイメージが消滅して新しいイメージが固まるまでに、少なくとも21日ほどかかることがわかった」
やがて医学関係者や組織行動主義者が、ある意味で皮肉なのだが、自ら行動せずにマルツ博士の説を引用するようになってしまったのだ。実は、マルツ博士の説は、少なくとも部分的に間違いがある。
一定の行動や手順への愛着が薄れたり、逆に強まったりするのに最低でも21日の期間が必要かもしれないが、新たな習慣が本格的に定着するにはもっと長い時間が必要なのである。イギリスの家庭医学会誌『British Journal of General Practice』によれば、正確には66日かかるという。
だが、重要なのはここからだ。目下のパンデミックから最終的に抜け出すまでに66日どころか、600日はかかるとすれば、これまで利用してくれた常連客であっても、何かの拍子にまったく新しい習慣や行動を持つようになっていても不思議ではない。新しいチャネルやブランド、購入手段を試すのに十分な時間ではないか。
だが、こうした習慣や行動の変わり方を正確に把握するには、小売業界をただ眺めているだけでは答えは見つからない。人生は小売りを投影したものではない。小売りが人生を投影したものなのだ。暮らしや仕事、教育、コミュニケーション、旅、趣味や気晴らしに至るまで、その場やありようが投影されるのである。
言い換えれば、パンデミックで小売りがどう変わるのか理解することも大切だが、その前にまずパンデミックで私たちの生き方がどう変わるのかを理解することが先決なのである。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント