(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍にあって、消費者の行動はどう変化していくのか。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

スポーツチームの応援は「心理的に非常に健全な活動」

■価値観と帰属意識

 

感染者数も致死率も増加の一途をたどるなど、パンデミックが猛威を振るう最中にあって、意外かもしれないが、社会のかなりの数の人々が、パンデミックそのものではなく、別のことに気を揉んでいた。それは、贔屓のスポーツチームの試合がいつ再開になるのかである。サッカーかアメリカンフットボールか、あるいは野球かクリケットかを問わず、世界中のファンは地元チームやスポーツ界の人気者が再びユニフォーム姿を見せてくれる日を待ちわびていたのである。

 

パンデミックの最中にスポーツに熱を上げている人々の姿に、不見識きわまりないと批判する声もあった。だが、死の顕現化というレンズを通して見ると、これ以上ないほど理にかなっているのだ。

 

多くの人々にとって、自分が応援しているチームは、自らのアイデンティティを確立するのに欠かせない心理的要素なのである。人間に元々備わっている個人的な価値観や帰属意識を満たす力があるのだ。生活のストレスから逃れる方法として、スポーツは健全な気晴らしになるばかりか、人付き合いの橋渡し役になることもある。

 

マレー州立大学のダニエル・ワン教授は、スポーツチームを追いかけたり応援したりすることについて、「心理的に非常に健全な活動」だと言う。

 

「ファンであることで、志を同じくする人々が結びつくきっかけとなり、これが帰属意識を求める人間のニーズを満たしてくれるのです」

 

さらにワンによれば、スポーツファンを自任する人のほうが、スポーツに興味のない人に比べて、「自尊心が高くて孤独感が低く、人生の充足感が大きくなる傾向にある」という。

 

私たち消費者は、さしあたっての脅威が過ぎ去ったか、少なくとも大幅に弱まったと気づけば、堰を切ったように生活を立て直し、自尊心や価値観を回復しようと動き出す。スポーツイベントの再開を求める気持ちは、そんな強い欲求の表れなのだ。

 

もちろん状況の感じ方は人によって大きく異なる。化粧品メーカーのエスティローダーの元会長、レナード・ローダーは、かつて、危機や不景気になると同社の口紅の売り上げが伸びたことから、これを「口紅効果」と呼んだ。そのような時代には、女性は高価な高級品の代わりに口紅など小さな贅沢を楽しむからだとローダーは推測した。

 

自尊心を保ちたいという欲求を満たすために、ある人は車を購入する。旅行を楽しむ人もいる。また、ネイルサロンやヘアサロンに行ったり、口紅を買ったりする行動も見られる。さらに、麻薬やアルコール、ギャンブルなど、後ろ向きの行動に走る人も、驚くほどの割合で存在する。

 

結局、消費者は、自尊心や価値観を自分なりに肯定する製品やサービス、体験を求めるのだ。

 

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