危機的状況下では特定のメッセージに敏感に反応
理性的な範囲での贅沢や自分へのご褒美を消費者に働きかけるメッセージが威力を発揮するのは、まさにこの段階である。マーケティング担当者としては、消費者が世界観を再構築する段階に入ってきたところで、分別をわきまえつつ、安全でささやかな自分へのご褒美という位置づけで製品やサービスを訴求すれば、大きな効果をもたらすはずだ。
■受け継いだ遺産と来世
死と背中合わせという現実を直視すると、自分の人生がこの世にどのような痕跡をとどめ、自分の死後に人々の記憶にどのように残るのかと思いを馳せることになる。その欲求はスピリチュアルな方法で満たされる人もいる。実際、主要な宗教は例外なく来世の到来を説いている。
また、この世で手にした名声や富、権力、権威、財産などのかたちで、自分が名を残したとの思いを強くする人もいる。この現象をエリザベス・ハーシュマン教授(心理学)は「世俗的な不死」と呼ぶ。この状態にある消費者には、自己研鑽や変身、夢の実現、慈善事業、家や車など大型資産の購入に関するメッセージがすんなりと受け入れられやすい。
マーケティング担当者としては、消費者の心理状態にもっと敏感になる必要がある。それも今だけではない。消費者がパンデミックのトラウマを抱え続けることを考えれば、今後もしばらくはそうした姿勢が大切だ。コロナ禍でだんだんと明らかになってきた人間行動について少々単純化してまとめたのが、次ページの表である(図4)。
要するに、人間の行動は必ずしも白か黒かのように二分できないのである。単純に倹約か散財かで割り切れるものではない。今、製品や体験を求める需要があったとしても、小売店やマーケティング担当者に都合のよいタイミングまで、いつまでも需要が膨らみ続けていくとは限らない。特に危機的状況下にはこれが当てはまる。
マーケティングの特定のメッセージには敏感に反応するのに、それ以外のメッセージはまるで目に見えていないかのように無視するという、複雑怪奇で避けようのない心理作用があるのだ。無視するだけならまだしも、ひどい場合、自分の欲求状態とは矛盾するかのようにメッセージを避けたりはねつけたりすることさえある。
また、ソロモンによれば、パンデミックの置き土産として、一時的に大きな繁栄や生産性向上、支出増を残していく可能性が非常に高いという。
ただ、1つだけはっきりしていることがある。私たちの思考や感情がこれほど長期にわたって痛めつけられれば、買い物行動も変化していかざるを得ないのである。