(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍はこのデジタル時代に小売業界をはじめ、既存のビジネスモデルの大崩壊を予感させるという。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

工事中の建物を見て小学校だと分かった理由

最近、妻と近所をドライブしていたら、新しく建設中の学校が目に留まった。そのときは二人とも深くは考えていなかったのだが、後になって奇妙なことに気づいた。工事中の建物の骨組みをちらっと見ただけで、公立小学校だと割と確信を持って判断できたのはなぜか。実際、もっと後になって、私たちの見立ては当たっていた。

 

その経験から、なぜほとんどの公立学校はいかにもそれらしいデザインなのか、疑問が湧いてきた。調べてみると、それには理由があったのである。話は200年ほど前に遡る。現在の公教育は、産業革命の産物だったのだ。

 

実際、工業化以前の学校教育は、王族や裕福なエリート層にほぼ占められていた。だが、仕事の性格が変わり、工場労働者に新たなスキルが求められるようになった結果、工場のオーナーらが大量の労働者予備軍に対する基本的スキルと知識の伝授を目的に、教育制度を考案することになった。

 

このような教育機関は「工場学校」と呼ばれる。プロシア(現ドイツ)で始まったものだが、たちまち世界中の主要都市に広がっていった。これを機に、子供たちが年齢別に分けられ、標準化された教育カリキュラムに沿って、進捗状況を管理されるようになった。

 

もっとも、その目的は、深い思考や独創的な発想を育むものではなかった。工場で問題を起こさずに、従順にテキパキと働くための知識やスキルを授け、行動矯正を受けた人間を現場に送り出すことに特化した制度だったからである。もっぱら産業の生産性向上や繁栄、富裕化を狙ったシステムである。

 

この教育が人材を送り込む工場だけでなく、教育自体も一種の生産システムになり、十分に有能で従順な労働力が“製品”となった。これが現代の公教育に発展したのである。今日の公立学校の多くが工場の建物に似ているのは、偶然ではない。優れた発想を触発する場ではなく、むしろ学習課程という組み立てラインに十分な数の学生を投入する装置として造られているからだ。

 

だが、工業化時代の産物は学校だけではない。大都市の適当な街角に立って周囲を見回してみるといい。視界に入ってくるものといえば、まず間違いなくビルや企業、大学、通勤者、学生、地下鉄、タクシー、バス、電車、メディアに至るまで、ほぼすべてが工業化時代の産物なのである。生産性向上、繁栄、富裕化が都市部に集中するようになったのは200年以上前のことだが、今挙げた大都市の景色は、そのころに始まった出来事の結果なのだ。

 

実際、1800年代に突入する前までは、世界の大部分が田舎暮らしの生活で、仕事は農業だった。ほとんどの商品は地元で作られ、地元で売られていた。村の靴職人、陶芸家、機織り職人は、製品の作り手だけでなく、売り手も兼ねていて、客一人ひとりの要望に合わせて作ることが一般的だった。これは実に興味深いと思う。

 

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小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

ダグ・スティーブンス

プレジデント社

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