(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍の消費者調査によると多くの国で支出は控えられていたが、例外があった。家庭用品、衛生日用品、食品、ホームエンタメなどの分野である。コロナ禍でもマーケティングメッセージによっては消費者に行動を起こさせることができるのか。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

危機時には安心感、安堵感、快適感を求める

■安心感と気休めを求める心

 

実存的危機、つまり人生の意味を失いかねない状況に陥ると、何よりもまず、私たちは安全・安心を取り戻そうとする。ソロモンが指摘するように、カネはまさにそのための頼みの綱だ。実際、文化の違いを問わず、多くの場合、カネが不死の代用品になったという。

 

「そう説いても首を傾げる人もいる。アメリカなら、私はこんなふうに説明している。1ドル札の裏に『In God, we trust』(われらは神を信ずる)との一節があり、同じ裏面の左側にはピラミッドの絵があって、その頂上に目玉が浮いている。これは古代エジプトの不死の象徴なのだ、と」

 

貨幣が死をものともしない盲目的崇拝の対象になり、宗教そのものになった人もいる。

 

混乱を収拾する支配力を求めるあまり、その思いに応えてくれそうな頼みの綱があれば、とにかく飛びつきたい衝動に駆られるのだ。なるほど、パンデミックを通じて頻繁に見られた行動の多くは、これで説明がつく。ハンドサニタイザー(消毒液)や消毒剤の買い占め、家の修繕・リフォームにかける費用の大幅増、家庭料理やパン作りの流行……。いずれも安心感、安堵感、快適感を確保する手だてである。

 

だが、人々が求めたのは安心感だけではないとソロモンは指摘する。ボードゲーム人気やネットフリックスの加入契約、自転車、ガーデニング用品なども空前の売れ行きとなった。どれも脅威から目を背ける道具である。

 

先ごろ複数の国々で実施された消費者調査によれば、調査対象地域全体で消費者が総じて支出を控える意向を示したことに驚きはないが、注目すべき例外が家庭用品や衛生日用品、食品、ホームエンターテインメントなどの分野だった。

 

つまり、コロナ禍の最中では、安全・安心とか、金融資産面で落ち着きを取り戻した心に訴えるマーケティングメッセージなら即座に伝わって理解され、行動につながる可能性が高い。

 

ワクチンの本格普及にはまだ時間がかかる可能性があり、景気面の懸念も消えそうにないため、総じて消費者は長期にわたって多かれ少なかれ安全と気晴らしを求め続けるはずだ。9・11は、心に大きな傷を残す事件ではあったが、時間的には短かった。一方、コロナ禍は医学的、経済的な脅威が2021年中も、いやひょっとしたら2022年になってもしぶとく続くと見るのが妥当だろう。

 

それまでは、マーケティング担当者にとっては、ブレーキがかかった状態の消費者に何とか火をつけたくても、なかなか思うように訴求できない日々が続くだろう。どの分野のマーケティング担当者であっても、空気を読み、適切なメッセージ伝達になるよう作り込む必要がある。

 

ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント

 

 

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

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ダグ・スティーブンス

プレジデント社

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