(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍の消費者調査によると多くの国で支出は控えられていたが、例外があった。家庭用品、衛生日用品、食品、ホームエンタメなどの分野である。コロナ禍でもマーケティングメッセージによっては消費者に行動を起こさせることができるのか。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

大衆迎合型のリーダーを希求する理由

このとき、ベッカーの提示する文化的世界観の仮説が当てはまる。不可避の死という現実から目をそらし、壁を築いて自分を守るためだ。

 

おもしろい仮説だが、現実世界で証明されたことはなかった。そこでソロモンらの研究チームが証明に乗り出したのである。一定の管理された環境で、被験者集団に対して意識的にも無意識的にも死を思い起こさせる刺激を与えておいてから、一連のテストを実施し、行動や認識に変化が生じるかどうかを測定した。

 

その結果は驚くべきものだった。

 

死を想起させる要素にさらされた結果、被験者の態度や行動が突然変わったという。(※写真はイメージです/PIXTA)
死を想起させる要素にさらされた結果、被験者の態度や行動が突然変わったという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

死を想起させる要素にさらされた結果、被験者の態度や行動が突然変わったのである。ソロモンらは、この状態のことを「死の顕現化」(命のはかなさを悟った状態)と呼んだ。死を想起させるものがあると、見た目や考え方が近い者同士とか、国籍・宗教・政治信条などが同じ者同士で一緒にいたいという欲求が刺激されたのだ。

 

また、死を想起させるものがあると、政治や共同体に対する態度にも影響が見られた。自身の死を意識した人々は、大衆迎合型でカリスマ性のあるリーダーを好むようになったのである。さらに、死の顕現化を受けて、人は自然界や動物界に対してあまり価値を置かなくなり、自分たちの経済的利益のために天然資源を利用する気持ちが高まりやすくなった。

 

この結果は、まさしくベッカーの仮説の延長線上にあるが、2001年に起きた出来事が、現実世界での死の顕現化仮説(存在脅威顕現化仮説)の壮大な実験になるとは、当のソロモンも想像だにしなかった。

 

2001年9月11日火曜日の午前8時45分。ニューヨークのワールドトレードセンターの北タワーに1機目の飛行機が突っ込んだ。その18分後、世界が恐怖に怯えながら事態を見守るなか、2機目が南タワーの60階に突き刺さった。あの日、自分があのタワーにいたとしても不思議ではなかったと多くの人々が激しい恐怖感に襲われた。程度の差こそあれ、自らの死が一気に現実味を帯びた瞬間だった。

 

「2001年9月11日を境にテロに関する書籍の執筆依頼が舞い込んだ」とソロモンは振り返る。

 

「その本で、9・11の惨事が大きなきっかけとなって、死の顕現化が誘発されたと指摘しました」

 

ソロモンらのチームが以前の実験で行動の変化に気づいたように、9・11以降の現実世界で同様の変化が見られたのである。

 

具体的には、消費のレベルが顕著に上がったのだ。たとえば、人々の心のなかでカネの力が大きく高まった。物を所有することが格段に重要になった。映画のレンタルやギャンブル、アルコール消費などが劇的に増加し、これに歩調を合わせるように精神疾患も増えていった。

 

ソロモンの目には、死の顕現化の仮説どおりの明確な反応に映った。消費者が先を競うように、自身の世界観を組み立て直し始めたのである。

 

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小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

ダグ・スティーブンス

プレジデント社

アフターコロナに生き残る店舗経営とは? 「アフターコロナ時代はますますアマゾンやアリババなどのメガ小売の独壇場となっていくだろう」 「その中で小売業者が生き残る方法は、消費者からの『10の問いかけ』に基づく『10の…

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