(※写真はイメージです/PIXTA)

2020年だけでも、アメリカで2万5000店が閉鎖に追い込まれ、さらに大型ビル内に店舗が並ぶショッピングモールの25%から最大50%ほどが数年の間に営業を停止すると予測されているという。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

世界ではすでに4億人の雇用が失われている

失業状況は、アメリカに限った話ではない。同じ年の7月には、イギリスでも同じような現実が浮かび上がった。500万人の労働者がロックダウンの開始と同時に解雇され、失職状態が続いていた。

 

1カ月後には、アメリカよりも新型コロナ対策がうまくいっていたカナダで、25万人近い雇用が戻ってきた。もっとも、このプラスの数字を反映しても、差し引きで失業率は10.2%というのが現実だった。これに対して、2008~2009年の金融危機の真っ只中でも、カナダの失業率は8.4%と、比較的明るい状態だった。

 

国連によれば、世界的には2020年第2四半期に4億人相当の雇用が失われており、これはアメリカとカナダの総人口を足し合わせた数に匹敵する。

 

ロックダウンを利用しようとした政治指導者らは、手痛いしっぺ返しを食うことになった。一部の国々は、早々に経済活動を再開したものの、さして間を空けることなくもっと厳しいロックダウンを実施せざるを得なくなった。

 

パンデミック対策では優等生だった韓国やニュージーランドのような国々でさえ、感染再拡大に見舞われた。このウイルスに対して世界が一定の集団免疫を獲得しない限り、国や企業、グローバルなサプライチェーンのパートナー各社は、今後も感染再拡大や事業中断に対処せざるを得ないと見ておいたほうがいい。

 

これは極めて重要なポイントである。効果的なワクチンが流通して安心感が得られるまでは、小売業界に限らず、世界経済全体を非常に限られた状態で回さなければならないからだ。失業率は改善するのだろうか。それは確かだが、完全雇用水準に戻ることは難しい。そんな状況で消費者は小売店に戻ってくるのだろうか。もちろん、感染を恐れる人々は来店しない。少なくとも、よほどの理由がない限り、そんな気にもならないはずだ。

 

しかも、店舗の最大収容人数やソーシャルディスタンス(安全な対人距離の確保)といった措置で、販売量はさらに抑え込まれる。

 

消費者の財布の紐は緩むのか。ある程度は緩む。だが、家計が厳しくなるのを恐れて、いざというときのために手持ち資金は大事にしまっておくという、消費者も一定数いるはずだ。結局、来店に気乗りしない消費者と感染拡大防止措置というダブルパンチで、事業活動を再開しても、パンデミック前の売り上げ水準に戻れず、商売人にとっては地獄のような状態に陥る。長期的には売り上げも利益もボロボロになってしまう。

 

入ってくるものが大して期待できなければ、業種・業界を問わず、企業というものは当然のことながらコストカットに動き出す。実際に多くの企業ですでにこうした動きが見られる。発注は棚上げになり、スタッフは完全解雇、会議・見本市は中止、オフィスは永久閉鎖になる。

 

この縮小・後退の動きが続けば、回り回って失業に拍車がかかる。当初のロックダウンの際には、失業の波は小売りやサービスの現場で働く低賃金労働者に襲いかかったが、ホワイトカラーにも広がるのである。ドミノ倒しはそこで止まらない。

 

やがて小売りやオフィスのスペースに明かりが灯らなくなれば、商業用不動産の落ち込みは危機的水準に達する。産業の“食物連鎖”をたどっていけば、ビル清掃サービスや警備会社、さらには機関投資家までもが、先の見えない未来の痛みを感じることになるのだ。

 

ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント

 

 

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

ダグ・スティーブンス

プレジデント社

アフターコロナに生き残る店舗経営とは? 「アフターコロナ時代はますますアマゾンやアリババなどのメガ小売の独壇場となっていくだろう」 「その中で小売業者が生き残る方法は、消費者からの『10の問いかけ』に基づく『10の…

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