(写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、ニッセイ基礎研究所が2021年7月12日に公開したレポートを転載したものです。

マンションの面積・単価の動向と、住宅ローン減税制度の変更

さらに、不動産の価格を見る際には、総額のほか、単価についても必ず確認する必要がある。

 

長谷工総合研究所の調査によると、改正前の2020年までの首都圏の平均総額と平均単価を見てみると、どちらも年々高くなっている[図表9、10]。一方で1戸当たりの平均面積は小さくなっている[図表11]。つまり、今のマンションの購入価格は、単価の上昇がプラスに、面積の縮小がマイナスに作用しているが、単価上昇がより大きいため総額も上昇している。

 

マンションの価格は、「面積」だけではなく、「立地」、「設備」、「間取り」など、様々な条件に応じて価格が決まる。例えば、多少面積が狭くても、より良い設備が付属していれば、その物件を選択する人も多いのではないだろうか。つまり、「縮小した面積」というマイナス条件を、他のプラス条件で拡充して競争力を保ったことで、「平均総額」と「平均単価」が高まっていると見ることができる。

 

[図表9]マンションの平均総額(新築、首都圏)[図表10]マンションの平均単価(新築・首都圏)
[図表9]マンションの平均総額(新築、首都圏)
[図表10]マンションの平均単価(新築・首都圏)

 

[図表11]マンションの平均面積(新築・首都圏)
[図表11]マンションの平均面積(新築・首都圏)

 

また、2021年度の住宅ローン減税等では、合計所得金額が1000万円以下であれば、対象物件の規模が40m2以上に緩和される[図表12]。2020年までの同制度の対象規模は50m2以上であり、50m2未満の住宅は、住宅購入による減税のメリットを受けることができていなかった。

 

新築の40m2であれば、間取りは1LDKとなることが多い。ターゲット層はDINKSや一人暮らしであり、新たな需要を掘り起こすだろう。また、この制度改正は、小規模の住宅需要の高まりを呼び、40m2以上、50m2未満の住宅に対しても、面積の縮小を他の条件で補完する動きを広げ、全体的な価格の上昇傾向を促進するのではないだろうか。

※共働きで子供を意識的に作らない、持たない夫婦のこと。

 

[図表12]2021年度住宅ローン減税等に係る税制改正の内容
[図表12]2021年度住宅ローン減税等に係る税制改正の内容

マンション市場にマイナスの影響を与える要素は

では、現在の市況にマンション価格を引き下げるように作用する要素はあるだろうか。

 

まず、供給者は資金調達が容易にできる状況であり、投げ売りが生じるような事態は想像できない。また、コロナ禍によっても住宅ローンの審査は厳格化しないと見られ、購入希望者の資金調達が困難となり、需要全体が大幅に減少して、価格が崩れるということも想定しづらい。

渡邊布味子『住宅ローン審査はコロナ禍でも厳しくならない-無理をして借りる人も増加、計画は慎重に』ニッセイ基礎研究所 不動産投資レポート、2020年8月31日

 

しかし、コロナ禍により実体経済が痛んでいるのは確かであり、一部企業の業績悪化や働く人々の所得にまで影響が及んできている。なかでもボーナスや時間外手当は企業業績悪化の影響を受けやすい。

 

リーマン・ショック前後とコロナ禍前後の賃金の推移を比べてみると、コロナ前後の方が時間外手当がより急速に減少している[図表13、14]。ボーナスカットや時間外勤務が減少すれば、所得減少の割合とほぼ同じ割合で住宅ローンの借入可能額が減少し、需要者の予算も減少する。このため、マンション市場の一部では需要が減退する可能性がある。

 

ただし、マンション供給量が少ない現在の市場では、ある需要者が購入できないとしても、別の需要者が購入する可能性が高い。潜在的なマンションの購入者層には今回のコロナ禍でも収入にあまり影響のない人も数多く存在すると考えられるため、現在のマンション市場においては、一部の需要者の年収低下が全体のマンション価格の下落に及ぼす影響はあまり大きくないのではないだろうか。

 

[図表13]リーマン・ショック前後の賃金の推移[図表14]コロナ禍での賃金の推移
[図表13]リーマン・ショック前後の賃金の推移
[図表14]コロナ禍での賃金の推移

数年以内にマンションが欲しいのであれば買ってもよい

新築マンションも、中古マンションも、現在は超売り手市場といってよい。価格は高値水準であるが、新築マンションの供給調整は続くと思われ、また中古マンションの供給も限定されている。当面はこの価格水準が維持されると思われ、さらに上がる可能性もあるだろう。

 

今マンションを買うとしたら、人気のある物件は早い者勝ちとなり、価格も下がりにくい可能性が高い。数年のうちにマンションを買いたい、と考えているのであれば、気に入った物件があれば買ってしまうのも一つの考えであろう。

 

なお、中古マンションの価格には、建物価格に設備更新による工事費が加算されている場合がある。相対的に価格の高いマンションほど、築年とのバランスを考える必要があるように思う。

終わりに

一度購入した住宅は一生付き合うことも多い。どのタイミングで購入するかは多くの人が迷うところであろう。

 

住宅の需要者は、ライフステージの変化や、生活環境の向上を動機に住宅を購入することが多く、需要者数は市況や制度の変化の影響を受けにくい。これに加えてコロナ禍により今の住宅へ不満が増し、住宅の購入を検討する人も増加するとみられる。

 

住宅は高額の買い物であるため、一時の勢いで決めずに、何度か見に行くなどの慎重さは当然に求められる。しかし、現在新築マンションの供給は限られ、中古マンションの供給が弾力的に増加する可能性も低い。気に入った物件があれば、購入を検討してもよいのではないかと思う。

 

 

渡邊 布味子

ニッセイ基礎研究所

 

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本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

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