最近、タワーマンションの材料や工法が斬新すぎて、普通のマンションの修繕・管理のメソッドが当てはまらないことが問題になっています。作家の山岡淳一郎氏の『生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて』(岩波新書)より、タワーマンションの問題点について一部抜粋・編集し、解説します。

タワマンの「大規模修繕」…紹介料という裏金

管理組合が最も気を配ったのが、工事発注の「透明性」を確保することでした。数十億円のお金が動く、超高層の多元改修では、理事長に業者が群がります。狙われるといっても過言ではありません。キックバックをチラつかせて「落とし」にかかります。

 

過去には「業者からの売り込み話はぜんぶおれに持ってこい」と嘯(うそぶ)く管理組合理事もいたようです。理事による業者の紹介は諸刃の剣です。

 

ステータスの高い住民が多いので豊富な人脈を生かせば、適材適所の業者を選べます。半面、理事のモラルが下がれば紹介料という裏金が飛び交います。いったん透明性が損なわれると、立て直すのは至難の業です。

 

そこで管理組合は、ルールをつくりました。1000万円以上の修繕工事は、原則的に元施工の推薦業者と、業界最大手、理事紹介の3社を呼び、それぞれに現地調査を要請したうえでプレゼンテーションの場を設ける。

 

その場に業者を紹介した理事も招き、橋本氏ら7人の修繕委員が技術論とコスト管理面から徹底的に精査することにしたのです。

 

「厳しい質疑を通して、紹介料のやり取りがいかにみっともないか、紹介料の授受が約3000人の住民に知れたら本人も業者も社会的立場を失うことを強調しました」と橋本氏。理事たちにモラルの徹底を刷り込み、共同体の規範を浸透させました。

 

さらに工事費が3000万円以上の修繕については住民総会での発注承認を義務づけました。外壁の大規模修繕では、月に2回、元施工の大手ゼネコンと修繕委員会の「工事連絡会」を開き、進捗状況とともにお金の動きも確認します。

 

大手ゼネコンの責任施工にしたのは理事や修繕委員への業者からの「余計なアプローチ」を防ぐためでもありました。大手ゼネコンの厳密なコスト管理を不正の防波堤にしたのです。

 

照明のLED化は、透明性を貫けるかどうかの試金石でした。住民のなかには電機メーカー、光学機器会社、量販店の役員や学識経験者がごろごろいます。「うちの商品を使ってほしい」「品質には自信がある」とあちこちから「推薦」の声が上がります。電球をLEDに交換するといっても予算は1億円。年間の電気代を5000万円減らす大工事です。

 

審判役の橋本氏は、「推薦したい方は申し出てください」と全方位で受けつけました。住民推薦で10社ちかくの製品がリストアップされる傍ら、橋本氏は「与件書」を作成します。交換するLEDに必要な機能、デザイン、価格帯の条件を綿密に記しました。

 

1階のエントランスは、温もりのある特殊な色温度の照明を使っています。色温度とは、光源が放つ光の色を数値で表わしたものです。その色温度のLEDでなければふるい落とします。選択のポイントは「調光」ができるかどうかでした。調光可能なLEDは限定され、推薦段階の百家争鳴状態にピリオドが打たれ、1つの製品に絞り込まれたのでした。

 

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建物の欠陥、修繕積立金をめぐるトラブル、維持管理ノウハウのないタワマン……。さまざまな課題がとりまくなか、住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃している。廃墟化したマンションが出現する…

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