市街地のタワマンが上層と低層で別々に修繕するワケ
市街地に建てられた超高層マンションのなかには、再開発時の「既得権」を引きずったルールが存在し、共同体の一体性を保ちにくいケースもあります。再開発前の地主の権利が手厚く守られ、住戸を買って入った新住民との間に溝が生じているのです。
いわゆる「市街地再開発事業」は、「低層の木造建築物が密集し、細分化された土地を統合して、不燃の高層マンションと公園や街路といった公共施設、オープンスペースの確保を一体的、総合的に行うこと」とされています。
消防車や救急車も入れない、路地が入り組んだ災害に弱い地域を、安全で環境の良いエリアに変える重要な役割を担っています。しばしば駅前の木造が集まる商店街の再開発に利用されてきました。
そのイメージは、まず木造密集地帯の地権者たちが土地を提供し、ひとまとまりの大きな開発地にします。事業前の権利に応じて権利変換を行い、再開発で建設された高層マンションの敷地・床が元地権者に与えられます。これが「権利床」です。元地権者たちは権利床で自ら商売を営んだり、店舗や事務所のテナントに賃貸したりできます[図表1]。
一方、建物の高度化で新しく生み出された不動産価値=高層マンションの敷地・床を「保留床」といいます。こちらは事業施行者が権利変換後に手にします。保留床は、たいてい新規の分譲住戸として販売されます。
事業施行者は、保留床の売上げや行政の交付金を建設費用に充てます。多くの場合、地権者が5人以上で共同の「再開発組合」を設立して事業施行者となり、地方公共団体や地方住宅供給公社、UR都市機構などが加わって市街地再開発事業は進められてきました。
しくみだけをみれば、市街地再開発は街の安全と環境を再生する貴重な手法と映ります。
ところが、再開発で建った超高層マンションを買って入居してみると、圧倒的多数の新住民よりも元地権者の権利のほうが強く、維持管理の合意形成に支障をきたす、という例もあるのです。横浜市の京浜急行電鉄・上大岡駅に近いタワーマンション(300戸・2003年末竣工)も、その1つです。
2015年の初夏、このタワーマンションの外壁の大規模修繕の相談を受けた改修技術者は、「うーん」と唸り、しばらく考え込みました。
改修技術者が頭を抱えたのは、同じ管理組合なのに、地下1階から地上4階の店舗や事務所は「施設部会」、地上5階から30階のマンションは「住宅部会」を組織し、考え方がまったく違っていたからです。外壁の大規模修繕は、住宅部会だけで実施するというのです。
「40年ちかく建物改修にかかわっていますが、こういうケースは初めて。低層階には作業に必要な仮設足場も掛けられません。機材の搬入や、対立する関係者間の連絡、調整を考えると気が遠くなった。でも、挑戦のしがいはありましたね」と技術者はふり返ります。
管理組合には2人の理事長がいます。住宅部会長と施設部会長です。マンションと商業施設、それぞれの代表者を理事にしています。コミュニケーションが円滑にとれていればいいのですが、そうではありませんでした。
大規模修繕を行う住宅部会長は、「生活の質を保ちたい住宅と、営利目的の商業施設の意見が合わないのは入居当時からですよ」と言います。施設部会の関係者は、「住宅部会長は十数年も同じ人がやっていて独裁的」と批判します。対立の源は再開発の過程にありました。
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