最近、タワーマンションの材料や工法が斬新すぎて、普通のマンションの修繕・管理のメソッドが当てはまらないことが問題になっています。作家の山岡淳一郎氏の『生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて』(岩波新書)より、タワーマンションの問題点について一部抜粋・編集し、解説します。

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「タワマン」の大規模修繕…うまくいかないワケ

2017年初夏、東京湾岸で、ちょうど大規模修繕の真最中だった50階建て・2棟・1000戸のタワーマンションを訪ねました。竣工は2002年、築後15年で外壁の大規模修繕をスタートさせていました。工期は約2年、予算規模は15億円です。

 

(写真はイメージです/PIXTA)
(写真はイメージです/PIXTA)

 

タワーマンションは、築後15年も経つと住民の構成が大きく変わります。このマンションで新築時から住み続けている住民はおよそ全体の3分の1、中古を購入した新住民が3分の1、残り3分の1が賃貸です。投資目的の所有者の多さがうかがえます。

 

管理組合の理事は15名です。初めから住んでいる元住民の世帯主はほとんど理事を経験しており、2回目の理事就任者も出始めました。新住民は世代的に若く、多忙で管理組合活動に距離を置きます。

 

元住民は、大手企業の役員や高級官僚、大学教授が顔をそろえ、良識的ではあるけれど、プライドが高く、折り合いがいいとはいえません。理事のなり手がなく、管理組合の運営に赤信号が灯るなか、大規模修繕にこぎつけていました。

 

大規模修繕と何気なく言いましたが、超高層マンションのそれは一般的な大規模修繕とはまったく別物です。そそり立つ外壁の修繕や屋上の防水でこと足れりではないのです。

 

超高層は、工法、材料、システムすべて斬新で同じものはありません。究極の一品生産です。1つずつ対応が異なります。とくに「設備」のすそ野が広く、メンテナンスに莫大な費用がかかります。外壁よりも設備の更新にかかる費用のほうが、よほど「大規模」なのです。

 

このタワーマンションでは、共用部分の空調の更新に4億円、セキュリティインターホンが2億円、照明のLEDへの交換で1億円、さらにヒーツと呼ばれるガス熱源による住棟セントラル給湯・暖冷房システムは20億円の費用を要します。

 

ヒーツには「引当金」が積まれているとはいえ、もはや何が「大規模」なのかわかりません。エレベーターや給排水管にも特殊な技術が用いられています。

 

これらの設備は、外壁の経年劣化と同時並行で傷み、陳腐化します。外壁修繕よりも設備の更新を優先しなくてはならない場合もあります。つまりタワーマンションの維持管理は、多元方程式を解くようにいくつもの解を導かなくてはなりません。

 

大規模修繕の概念を変える必要があります。超高層マンションの総合的な修繕は、従来の呼び方を止め、「多元改修」とでも称したほうが実態に合っています。元のレベルに戻す修繕ではなく、設備を新たにして機能を高める改良を含む考え方への転換です。

 

私が訪ねた湾岸のタワーマンションは、まさに「多元改修」の最中でした。

 

そのキーパーソンが、管理組合の修繕担当理事・橋本友希氏です。橋本氏は、大手不動産会社に31年勤務し、超高層建築や集合住宅の設計に携わり、再開発事業ではマネジメント業務も担当しました。

 

タワーマンションの住民で、建築の設計、管理運営のプロフェッショナルでもあります。理事のなり手がいない状態を憂え、「現状を放置していたら取り返しがつかなくなる」と一肌脱いだのでした。

 

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生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて

生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて

山岡 淳一郎

岩波書店

建物の欠陥、修繕積立金をめぐるトラブル、維持管理ノウハウのないタワマン……。さまざまな課題がとりまくなか、住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃している。廃墟化したマンションが出現する…

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