「厳しすぎるコロナ対応」は回復力を弱める原因
2021年2月の科学誌『ネイチャー』によると、新型コロナウイルスについて、多くの科学者は「風土病になる」「時間が経つにつれて危険性は低くなる」と予期しています(※2)。
ネイチャーは、コロナウイルスの研究に取り組む100人以上の免疫学者や感染症学者、ウイルス学者を対象に「新型コロナウイルスを根絶できるかどうか」という質問をしました。その結果、回答者のほぼ90%が、新型コロナウイルスは風土病になると考えていました。
ミネソタ大学の疫学者マイケル・オスターホルム博士は「このウイルスを今すぐに世界から根絶することは、月に続く踏み台の建設を計画するようなもの。非現実的です」と言います。
オックスフォード大学の疫学者クリストファー・ダイ博士は「新型コロナウイルスは一部の国から排除されると思いますが、ワクチン接種率や公衆衛生対策が不十分な場所から再燃するリスクは、継続的に(おそらく季節性的にも)発生するでしょう」と言います。
ただし、新型コロナウイルスの根絶に失敗したからといっても、これまでと同じ規模の死亡率、感染率、社会的孤立が続くわけではありません。インフルエンザや一般的な風邪の原因となる4つのヒトコロナウイルスが流行し続けても、毎年のワクチン接種と獲得免疫を組み合わせることで、ロックダウン(都市封鎖)やマスク着用、ソーシャルディスタンスを必要とすることなく、死亡や感染を防ぐことができます。新型コロナウイルスも、インフルエンザと同様に毎年冬に発生する季節的なパターンに落ち着く可能性があると考えられています。
ところがシンガポールと台湾では、すでに入国制限を解除し始めている西側諸国に比べればほんのわずかな再流行にも関わらず、厳しい入国制限を潜り抜けてきた感染者に対して積極的に対応しているため、新たなロックダウン規制のサイクルに陥る恐れがあります。この「ゼロ・トレランス方式(厳しく取り締まること、不寛容政策)」は、オーストラリア(回復力3位)、中国(9位)、香港(10位)でも見られます。
ブルームバーグ・ニュースは、世界の各地域が新型コロナウイルスを風土病として受け入れつつあるなかで、ゼロ・トレランスという姿勢であり続けるのは、新型コロナウイルス感染症から回復する際に致命的な弱点になるだろうと指摘します。
ゼロ・トレランスの国では、ワクチンの展開が遅れています。ワクチンの供給制限が生じたり、感染者が少ないために市民の意識からワクチン接種の緊急性が欠如してしまったり、副作用の懸念が生じるなどしているためでしょう。その間、ワクチン接種が進む国々は、入国を再開し始めています。緊急事態宣言を繰り返し、厳格な入国制限を継続している日本も、ゼロ・トレランスの国々と似たような状況にあると思います。
※2 https://www.nature.com/articles/d41586-021-00396-2