3月末、福島県いわき市に新たな基幹型臨床研修病院が誕生した。臨床研修病院の指定を受けるための条件は非常に厳しく、筆者は「行政機関や他の医療機関との『連携』があってこそ実現したこと」と述べる。指定獲得を実現させるほどの「連携」は、どのようにしてできあがったのか。地域医療のために行ってきた日頃の取り組みを振り返る。

基幹型病院の指定獲得は「外部との連携」の賜物

当グループの運営施設の1つである常磐病院が、2021年3月30日付で「基幹型臨床研修病院」の指定を受け、2022年4月から初期臨床研修医を採用できるようになりました。

 

基幹型病院の指定を獲得するには、東北厚生局や福島県などの行政機関や、福島県立医大をはじめとする他の医療機関との連携が必要でした。

 

連携先との関係は、ただ基幹型病院の指定申請を進めるなかで生まれたものではありません。福島県東部の太平洋に面するエリア「浜通り」の地域医療を支えることを目的に、以前から関係を深めてきていました。だからこそ、基幹型病院の指定申請も前に進められたと言えます。

 

「人材育成のため…」福島県立医大と連携した事例

たとえば、福島県立医大との連携です。以前から常磐病院では、福島県立医大の竹之下誠一理事長をはじめ多くの先生方を招聘し、講演をいただきながら、地域の状況についてディスカッションするといったことを定期的に行ってきました。

 

福島県立医大としても、医療資源が不足している浜通りの強化は重要課題であると認識しています。

 

浜通り強化のための連携事例としては、常磐病院内に福島県立医大サテライトキャンパスを設置したことが挙げられます。福島県立医大と公益財団法人ときわ会は2020年3月19日に連携協定を結びました。これにより、福島県立医大の大学院(災害・被ばく医療科学分野修士課程)の授業を、常磐病院内で受けることができるようになりました。医療人材を浜通りでどう育成していくかは、大きなテーマであり続けています。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

 

実際に浜通りにも、福島県立医大の修士課程への進学を希望する医療従事者がいます。常磐病院の看護師も、この3月に公衆衛生学講座で修士の学位を取得しました。

 

オンライン化がそれほど進んでいなかった1年次は、週3回の授業のために片道1時間半〜2時間ほどをかけて通っていました。交通手段は現実的には車しかありません。「運転が苦手で…」と語っていた彼女にとっては、非常に大変なことだったと思います。

 

働きながら通学するには勤務調整も必要で、グループ内や看護部内の理解を得るのも大変なことでした。完遂したことに敬意を抱きます。

 

遠方までの通学が必要で、職場の理解を得られない、家庭の事情的に厳しいなどの理由で断念せざるを得ないケースもあったはずですが、せっかく希望しているのに人材を育てられなかったり、通学のために転職したりするのは地域にとっても損失です。

 

結果的にコロナ禍でオンライン化が一気に進みましたが、サテライトキャンパスとして準備したことで心理的なハードルも下がったようで、「せっかくだからチャレンジしてみたい」と院内のリハビリスタッフも福島県立医大の大学院に進学しています。

 

このように人材育成のために連携していた事例もあったことで、基幹型病院の指定獲得に関連した取り組みにおいても、福島県立医大とはすぐに相談できる関係ができあがっていました。

 

特に、臨床研修関連の推進役であった乳腺外科の尾崎章彦医師は、竹之下理事長と密に連絡を取り合いました。

 

特別扱いがあったわけではありませんが、研修医の受け入れ実績確保やCPCの開催、研修プログラムでの連携といった基準を満たしていくには、どこにどうアプローチしていくのが良いかなど、相談に乗ってくださいました。

 

日頃の交流を通して「意外なアピールポイント」が判明

浜通り内での連携事例も紹介します。公益財団法人ときわ会は、医療法人社団茶畑会と、「地域医療連携推進法人」を立ち上げていました。2019年10月1日に認定された「ふくしま浜通り・メディカル・アソシエーション」です。

 

浜通り地区では、透析医療をどう維持していくかが問題になっています。ここにおいても、人材育成をどう進めるかが大きなテーマです。

 

人工透析を安全に実施するには、経験を積んだ看護師や技師が欠かせません。地域医療連携推進法人のスキームを活かしつつ、人材の交流などに取り組んでいます。こうした繋がりもあり、基幹型病院を目指すなかでは、医療法人社団茶畑会の立谷秀清理事長にも相談させていただきました。

 

立谷理事長は、臨床研修病院の指定について諮られる県の地域医療対策協議会のメンバーでもあったため、あくまで公平な扱いでしたが、「応援されるためには、たとえばコロナの対応に、“ときわ会”としてではなく“常磐病院”として積極的に取り組んでいるとわかるようにしておくのがよい」という話をいただきました。

 

ときわ会では、グループ内の一つのクリニックで、常磐病院をはじめグループ内の他施設からも応援を出して、PCR検査や陽性者の入院受け入れなどをしていました。

 

しかし、「ときわ会はコロナ対応に取り組んでおり、これには常磐病院も関係している」と認識しているのはいわき市内の保健所などだけで、県の認識では、ときわ会と常磐病院は結びついていないとのことでした。

 

県としては、各地域でどのようなグループが形成されているかまでを把握するのは困難です。事務処理レベルでも、具体的な施設名が見えるのと見えないのとでは大違いなのです。

 

ちなみに、コロナワクチンの配分に関する市内の説明会で県の職員から話があったときにもその通りなのだと感じました。はじめのうちは県のワクチンチームが市内の接種体制も決めていくというような説明もありましたが、それぞれの地域の事情まで把握するのは困難であったため、意見や希望の取りまとめなどは市の医師会が担うことになるといったこともありました。

 

筆者もお手伝いしている市のPCRセンターが設置される施設では、PCRセンターの運営に加え、軽症の陽性者の入院も引き受けており、陽性者の入院数は市内2番目の多さでした。コロナ対応を確実なものとしておくためには優先的に接種を行いたいと考えていましたが、最初の説明では、初期段階で配分されるリストには入っていませんでした。県のワクチンチームとの情報共有がうまくできていなかったのです。

 

常磐病院では状況的に、PCR検査や疑似症の受け入れを件のクリニックだけに任せるのではなく、自らが担う必要性を感じ、積極的にコロナ対応を進めることになったため、結果的には応援を受けやすくなりました。

 

相談されれば快諾する「ノリの良さ」が連携を強化

本稿では、様々な取り組みをすることで繋がりができ、相乗効果となる事例を紹介しました。連携を深めるには、「ノリの良さ」が大事なのでしょう。常磐病院の場合、院長のノリの良さも申し分ありません。しかし、病院全体のノリを左右するのは事務部長のようにも思います。院長と病院の運営について密にコミュニケーションを取りながら、最も幅広く院内スタッフに連絡し、調整していくことになるからです。

 

コロナ対応でも、PCR検査の相談は保健所長から院長のところに入ります。「これまでにない数の検査が必要で、相談できれば…」という連絡があると、二つ返事で「わかりました!」と院長が答える。それを事務部長に、「受けたけどどうしようか」と相談をする。事務部長は「わかりました! みんなを呼んできますね」と進めていく。

 

「どうしようもなければ自分が出るから!」と院長はよく言います。腹が据わっています。こうしたことの積み重ねが連携を深めていき、結果的に基幹型病院の指定獲得にも結びついていったのだと思います。

 

筆者は基幹型病院指定獲得の仕事において、はじめのうちは院長秘書と、途中からは事務部副部長と、院長や事務部長に近いところで取り組ませていただきました。筆者自身、とても勉強になりました。

 

 

杉山 宗志

ときわ会グループ

 

 

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