家族の数だけ相続のかたちがあり、トラブルの内容も様々ですが、トラブル回避の対策は想像よりもシンプルです。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、これまで受けてきた数多くの相談をふまえたうえで解説します。

70代になったら、資産状況を家族と共有すべき理由

自宅は所有者とってかけがえのない財産です。そこは生活をするだけの入れ物ではなく、若い間は家族や友人とにぎやかな時間を過ごし、年齢を重ねてからは夫婦のゆったりした時間を楽しみ、そしていつか訪れる「ひとり暮らし」に備える大切な場所です。人生の季節に沿った快適な環境が維持できるよう、室内外の手入れを重ね、管理を行います。

 

 

しかし、これほどまでに愛着を持って大切にしてきた自宅も、いざ相続の段になると「いちばん厄介な存在」になりかねません。

 

もし自宅をはじめとする資産が夫名義だった場合、お子さんがいなければ、相続人は妻だけにとどまりません。夫の両親、次いできょうだいにも相続権が発生します。また、相続の際には、家、車、金融資産などすべての財産を金額に換算したものを相続人に分配することになりますから、金融資産が少ないのに相続人が多いと、遺産分割のため、いま暮らしている家を手放さざるを得ないリスクもあるのです。

 

そうならないために、まずは元気なうちに全財産を把握して、遺産総額と相続人を確認しておくべきだといえます。できれば相続人全員が、事前に資産内容を共有しておくのが理想でしょう。 お勧めのタイミングは夫がリタイアするときです。最近は60代でも現役の場合が多いので、70歳ぐらいがひとつの目安です。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

「所有権」と「配偶者居住権」、どちらを選ぶべきか?

妻が家を相続する場合、従来の「所有権」と、所有権を持たなくても配偶者ならそのまま住み続けられる「配偶者居住権」のいずれかを選べるようになりました。 配偶者居住権は、遺産の分配のために妻が家を手放さなくてもいいように、2019年に制定されました。こちらを選べば自宅に住み続けられますが、所有権は子どもなど妻以外に渡ります。住み慣れた家でずっと暮らしたいという人は、配偶者居住権を選ぶといいでしょう。

 

「配偶者居住権」を選ぶと、所有権は持てませんが、預貯金などの金融資産を多く相続できるメリットがあります。一方で「所有権」は、住むのも売却するのも自由です。ひとり暮らしになって広い家を持て余し、住み替えや介護施設への入所などを考えているなら、所有権を選ぶのがおすすめです。

 

所有権を選ぶと相続税がかかります。しかし、「配偶者控除」によって1億6000万円までは非課税になりまから、ほとんどの方はこの枠に収まるでしょう。資産状況によって、遺産を分配してもなお余裕があるなら、家を売却して住み替え費用に充てることもできる「所有権」のほうが自由度が高くなるといえます。

 

いずれにしても、どちらを選ぶかは、そのほかの財産がどれだけあるかにかかってきます。 金融資産が多ければ、配偶者居住権を選んでも妻の老後の安定感は高まるでしょうし、家以外の財産が少なければ、その後の生活を考えて家の売却・現金化も視野に入ってきます。

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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