家族の数だけ相続のかたちがあり、トラブルの内容も様々ですが、トラブル回避の対策は想像よりもシンプルです。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、これまで受けてきた数多くの相談をふまえたうえで解説します。

配偶者の資産状況を「知らされていないケース」は多い

しかし、財産の把握はそう簡単な話ではないのです。

 

「いまは夫から月々の生活費を受け取ってやりくりしていますが、預貯金などの大きなお金は夫任せで、どの銀行にどれだけあるのか、よくわかっていません。夫は〈おれに任せておけば心配ない〉というばかりですが、万一先立たれたときのことを考えると…」

 

このように、夫が財産のほとんどを管理している家庭も少なくありません。 また、夫婦共働きの家庭の場合、それぞれが自分の収入や貯蓄を別々に管理していて、家庭の資産の全体像が把握できていないこともあります。

 

このような状況で配偶者に先立たれると、気持ちが落ち着かないなか、財産の全容を掴むために手間暇をかけるのは本当に大変です。そうならないためには、とにかく生前に情報を共有しておくことが重要なのです。不動産はもちろんですが、銀行口座や株式・投資信託、近年では仮想通貨といった金融商品全般、生命保険、車、そして住宅ローンや借入などの「負の遺産」も含め、ありとあらゆる財産をリストアップして、まとめておくのです。

 

ネット銀行やネット証券の取引などは、IDやパスワードも記録して、厳重に保管しておきましょう。貸金庫の有無も忘れずに。

相続発生時の面倒事を一掃するには「遺言書」が便利

全財産が把握できたあとは、生前に遺言書を用意するのが最善策です。それにより多くの面倒事やトラブルを回避することができます。

 

遺言書には、自分で書く「自筆証書遺言」と公証役場で作る「公正証書遺言」があります。公正証書遺言の作成は、財産額によっては30万円前後かかる場合もありますが、内容に不備があって遺言書が無効になるといったトラブルは避けられます。遺言書は、「だれに、なにを、どのくらい相続させる」という意志を書いた遺言書と「全部でこれだけの財産があります」と書いた財産目録の両方を正しい書式で作成しなければ効力を持ちません。できる限り専門家の力を借りて作るのが得策だといえます。

 

自筆証書遺言を作成する場合は、これまでは自宅で保管するしかなく、紛失や改ざんのリスクがありましたが、令和2年7月から法務局で保管できるようになりました。内容の不備などの確認はしてもらえないものの、家庭裁判所の検認(遺言書を確認してもらう手続き)が不要になったほか、パソコンでの作成や、代理人による作成も可能になりました。財産目録として通帳や保険証券などのコピーを添付することもできるようになり、遺言書の作成は以前よりかなり手軽になってきたといえます。

「家を継がせたい」気持ちが、子の重荷になることも…

あらかじめ財産を分けておく「生前贈与」というやり方もあります。 夫が元気なうちに、妻が自分名義の口座を持ち、 夫から渡される毎月の生活費のうち、残った金額を自分口座に入れておくといいでしょう。生前贈与は、年間110万円までなら非課税で、申告も不要です。前もって相続財産を減らすことで、相続税対策にもなります。

 

一方で、別の注意点もあります。「わが子のためになにかしてあげたい」という親心も、ほどほどにておくことが大切です。「子どもに家を残したい、受け継いでほしい」という方は多いのですが、子ども側の意思確認を忘れてはいないでしょうか。

 

子どもに財産を残すつもりでいても、建築物は年々老朽化しますし、不動産は所有しているだけで維持費・税金がかかります。状況によっては、子どもの負担にしかならないケースも多いのです。なにもかも親の思い通りにするのではなく、子どもの意思や人生設計を尊重するのも、親心なのではないでしょうか。そのような観点からも、資産状況を正確に把握し、どうやって次世代へとバトンタッチしていくか考えることは、非常に重要なのです。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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