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高齢独居の母との同居を申し出た、末っ子三女
今回の相談者は、定年退職後、嘱託社員として働いている60代の高橋さんです。
高橋さんは5人きょうだいの長男です。高橋さんのきょうだいは、大学や短大を卒業後、全員が親元を離れて就職し、その後、結婚しています。そのため高橋さんの両親は、子どもたちを育て上げたあと、広い家で静かな老後生活を送っていました。
しかし、10年以上にわたる穏やかな生活のあとに父親が逝去。高齢の母親はひとり暮らしになってしまいました。子どもたちはそんな母親を心配し、きょうだいのだれかが引き取って同居しなければと、話し合いを行いました。
それぞれが仕事や子育てを理由に渋るなか、末っ子の三女が引き取りを申し出ました。たまたま三女の夫が早期退職制度を利用して離職したタイミングだったことや、2人の間に子どもがなかったことから、比較的身軽に動くことができたのです。
同居の三女に大きく偏った遺産分割
三女夫婦と円満に同居していた母親でしたが、同居から数年で亡くなりました。
すると、きょうだいが相続についてなにもいい出さないうちに、信託銀行から知らせが届きました。
高橋さんの母親は遺言信託をしており、公正証書遺言に基づいて信託銀行が相続の手続きをするというのです。高橋さんをはじめ、ほかのきょうだいたちにとっても寝耳に水でした。どうやら同居する三女夫婦が信託銀行を依頼したようです。
母親の公正証書遺言によると、下記のような内容となっていました。
自 宅:三女(同居していた末っ子)
土地①:長男(高橋さん)
土地②:長男を除く4人の共有
預 金:3分の2は三女、3分の1は三女の夫に遺贈
なお、附言事項として、墓守や法要は長男である高橋さんがするようにとの記載がありました。
この内容を見て、預金を三女夫婦が全部もらってしまうのは納得できないと、高橋さんだけでなく、ほかのきょうだいからも不満がでました。
高橋さんは、三女に少し考慮するよう話を持ち掛けましたが、まったく聞く耳を持たず、遺言に書いてあるから当然といった態度です。
高橋さんは窓口となった信託銀行にも出向き、証人になった責任を問い、調整を掛けあいましたが、故人の意思のとおりで自分たちには責任はないとのそっけない返事で、まったく取りつく島もありません。
そこで、筆者のもとに「なんとかならないか」と相談に来られたわけですが、遺産分割の詳細を確認したところ、遺留分にも抵触しておらず、しっかり計算された結果だと見受けられました。
不動産はともかく、預金部分だけでも遺産分割協議をし直してくれるよう三女に持ちかけてみてはどうかとアドバイスをしましたが、実際のところ、その程度しか選択肢はなさそうです。
高橋さんは、多少の土地はもらったものの法要の費用が配分されなかったこと、また、信託銀行が遺産分割の揉め事に一切介入せず、知らん顔を決め込んだことに不満を感じている話していました。
信託銀行に親族トラブルの解決を期待するのは無理がありますから、そこは親族間で対応していくしかないでしょう。相続においては、同居している相続人に有利な遺言が作成されやすくなります。今回のような「寝耳に水」という事態を回避するためにも、親が存命のうちから親族間の交流を心がけ、双方の事情を共有しておくことです。そのうえで、相続人間で財産分与の話し合いを持つようにすることが大切でしょう。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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