「家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。」……2500件以上の家賃滞納トラブルを解決してきた、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏。同氏は書籍『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)のなかで、その悲惨な実態を明かしている。

滞納額60万円超…大手企業に勤めていた男性に何が

入居申込書には、大手建設会社の名前が書かれていました。

 

伊藤和夫さん(33歳)は、一級建築士です。10年以上借りているこの部屋で、7カ月間家賃の支払いがありません。滞納額もすでに60万円を超えていました。大手企業に勤めている方が家賃を滞納するのは、かなり珍しいケースです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

家主からの依頼を受けた私は、とにかく本人に連絡をとろうと部屋を訪ねました。インターホンを鳴らしましたが、応答はありません。ただ、エアコンの室外機は動いているので室内にいることは間違いなさそうです。

 

滞納者の多くは、居留守を使います。自分が滞納していることはわかっているので、やはりバツが悪いのでしょう。ドア越しにテレビの音が聞こえていたり、エアコンの室外機ががんがん回っていても、チャイムを鳴らしたとたん、音が消える、エアコンが止まる、そんなことは珍しくないのです。

 

和夫さんも同じ状況だと思われましたが、平日の昼間に部屋にいるとなれば、仕事も休んでいるのでしょうか。滞納という事実から考えると、仕事を辞めてしまった可能性のほうが高いかもしれません。私はそんなことを考えながら、部屋を後にしました。

 

和夫さんの連帯保証人である実の姉の玲子さんにも、家主から督促状は繰り返し送られていましたが、反応はありませんでした。家賃滞納の明け渡しの訴訟になれば、連帯保証人の玲子さんも被告ということになります。

 

玲子さんの住民票を取得してみると、契約時から5年ほどして結婚されていました。今は小さなお子さんのママでもあります。堅実に家庭を築いている中で、いきなり裁判所から訴状が届いてしまうと、ご主人の手前立場もありません。まして実の弟が原因ともなれば、戸惑いやショックも大きいはずです。

 

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家賃滞納という貧困

家賃滞納という貧困

太田垣 章子

ポプラ社

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