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72歳母「今年も用意しておこう」
東京都内で一人暮らしをする佐々木洋子さん(72歳・仮名)は、お盆が近づくと、毎年のように新札を用意していました。長女一家が帰省するときに渡す「お盆玉」です。最初は幼かった孫が喜ぶ顔を見たくて始めた習慣でした。1人5000円だった金額は、小学校高学年で1万円に、中学生になる頃には自然と2万円になっていました。
誰かに頼まれたわけではありません。
「大きくなったから、少し増やしたほうがいいかな」と考えたのは洋子さん自身でした。お盆玉だけではありません。帰省中の外食代は洋子さんが支払い、ショッピングモールへ出かければ「せっかくだから」と洋服や文房具を買ってあげます。
孫は「ありがとう」と笑顔を見せます。娘も「いつも助かるね」と言います。決して感謝がないわけではありません。ただ、何年も続くうちに、それは家族みんなにとって「毎年あること」になっていました。洋子さんも、「今年はどうしよう」と考えることなく、夏が来れば封筒を準備するようになっていたのです。
現在の収入は、老齢基礎年金と遺族年金を合わせて月13万9000円、手取りにすると13万円ほどです。預貯金は約1100万円ほどで、住んでいる団地は築40年。水回りの修繕や設備の更新に備え、300万円ほどは手を付けないと決めています。
普段から質素倹約を心掛け、月の支出は11万円弱。月2万円程度を貯蓄にまわします。ただ、子どもたち家族の帰省のタイミングで、年金1カ月分以上の出費となり、年間では赤字になるといいます。
総務省の『家計調査 家計収支編(2025年)』によると、65歳以上の単身女性世帯における1カ月の平均消費支出15万2996円のうち、お盆玉やお祝い金などを含む「交際費」は1万3431円(うち現金などを渡す「贈与金」は4339円)となっています。洋子さんのように普段の生活費をとことん切り詰めて毎月2万円(年間24万円)の貯蓄を生み出しても、平均を大きく上回る年間40万円もの孫への出費が続けば、一気に十数万円の赤字に転落してしまいます。
ある年のお盆でした。帰省初日の夕食は、いつものように洋子さんが予約した回転寿司店。会計は1万7000円ほど。レジでは自然と洋子さんが財布を開きます。誰も「今日は私が払うよ」とは言いません。もちろん、「払ってください」と言われたわけでもありません。
帰宅後、お盆玉を渡すと、孫は笑顔で受け取り、そのまま自分のバッグへしまいました。以前は封筒を開ける前に「ありがとう、おばあちゃん」と抱きついてきた子です。今は「ありがとう」と言ったかどうかも思い出せません。
洋子さんは、その変化よりも、自分が何も考えず封筒を差し出したことに引っ掛かりました。
「私は、何のために渡しているんだろう」
そう思ったのは初めてでした。
翌日、ショッピングモールへ出かけると、孫は文房具店やスポーツ用品店を見て回りました。
「新しいラケットバッグが欲しいんだ」
そう話す孫の横で、娘は「部活も忙しいものね」と笑っています。そのやり取りをごく自然な家族の会話として聞きながら、洋子さんは「この流れなら私が買うことになるのかな」と考えている自分に気付きました。
結局、その日は1万3800円のバッグを買いました。誰かに頼まれたわけではありません。「せっかく来たんだから」という気持ちで財布を開いたのです。